「Sex Allocation」 第11章 一般的な問題 その5

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)



11.3.2.2 適応主義アプローチとバウプランアプローチ


適応主義アプローチとは,ある生物をいろいろな特性の集合体として捉え,その特性一つ一つの適応価を考えていくアプローチだ.グールドとルウォンティンはこのアプローチを批判し(Gould and Lewontin 1979),代替アプローチとしてバウプランアプローチを提示した.これは生物を統合された全体として捉え,適応の系統的制約や発生的制約の重要性を強調するものだ.


制約重視のグールドの適応主義批判はかなり昔の話だが,ウエストは,性投資比理論はこの批判とそこから生じた論争の示唆をテストする素晴らしい機会を与えてくれるとして本節を提示している.

  • 性投資比リサーチは適応主義アプローチの成功の明瞭な例を提供してくれる.とくにESSモデルは,何度も何度も親が行うべき条件付き性投資比戦略について明確で検証可能な予測を生みだし,実証テストはそれを支持してきた.このリサーチの成功はまさにグールドとルウォンティンがすべきでないとした方法(つまり性投資比をその他の特性と分離して考察すること)によって達成されたものだ.それが成功したのは,計量や操作が容易な少数のパラメータに依存した予測が可能だったからなのだ.
  • また性投資比リサーチは,グールドやルウォンティンの提示したバウプランアプローチの問題点を明瞭に示している.最もよく知られたバウプランアプローチによる性比予測は「性染色体による性決定システムを持つ生物は性投資比決定に対する大きな制約を持つはずだ」というものだ.この予測の影響で哺乳類や鳥類に関する性比リサーチはほとんどなされずに,その結果数十年間停滞した.しかし,最近になってこのような性染色体による性決定システムを持つ生物における,極めて印象的で疑いのない適応的な性比調節が発見され,適応主義アプローチは復活し,大きな成果を上げつつある.
  • そして次節に見るように適応主義アプローチこそが,様々な制約を調べるのに役立っているのだ.


性染色体による性比決定システムがある鳥類や哺乳類では適応的な性比調節は見つけにくいだろうというのは当然の予想で,予算や時間に制約のある研究者が手を出しにくいのはよくわかる.これは別にグールドに影響を受けたからという訳でもないだろう.1970〜80年代を生きた行動生態学者のグールドへの微妙な思いがこういう書き方に結びついているのかもしれないと感じさせる.