2017-05-11

作者: ロバート・Ｈ・フランク
出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
発売日: 2017/04/14
メディア: Kindle版
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以前私が書評したロバート・フランクの「Success and Luck: Good Fortune and the Myth of Meritocracy」が邦訳出版された．本書は進化心理学にも明るい経済学者ロバート・フランクによる累進的直接消費税の導入の勧めにかかる本である．これまでの同じテーマの本である「Luxury Fever」「What Price the Moral High Ground?」「The Darwin Economy」の3冊が訳されていない中，いきなり本書が訳出されるという奇妙な経緯になっていて，日本人読者にはわかりにくいところもあるが，実は「累進的直接消費税導入が望ましい」というのはフランクが15年以上前から主張しているもので，いわば彼のライフワークともいうべきテーマである．本書ではその主張の骨子を丁寧に復習した後に，「人生の成功は大きく偶然で決まっている」という真実が理解できれば，この政策が受け入れやすくなるだろうという議論を行っているものだ．

よくある行動経済学の議論が，損失と利益の非線形選好（プロスペクト理論），プライミング効果，アンカリング効果，保有効果などから「合理的経済人の仮定」は厳密には正しくなく，伝統的経済学の議論が成り立たないということを主に指摘するものであるのに対して，フランクの議論は「ヒトの効用，特に地位を誇示するような顕示的消費についての効用が『相対的』である」ことから伝統的経済学の議論が成り立たないことを指摘するというものであり，ちょっと視点が異なっている．そしてその状況をうまく政策的に利用するために累進的直接消費税の政策提言があるという構成になっている．

累進課税を行うために消費税を直接税にするというのはなかなか突飛な発想だが，納税者が自主申告するというフレームを前提にすればそれは不可能ではないだろう．私的には，所得税からの切替はテクニカルに難しい問題が多いし，政治的にも有権者を納得させるのが困難だと感じるが，いろいろな問題の解決策としては実にエレガントだし，頭の体操としてもなかなか刺激的だと思う．

なおこの邦題のつけ方には賛成できない．「味方にする」などといかにも「成功するためのノウハウ」が書いてあるかのような余計な文言を付け加えるのは，営業政策ということかもしれないが，控えめに言っても下品だと思う．

原書に対する私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20161107

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