はじめに線虫ありき

はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まった

はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まった

サイエンスライターによる線虫C. Elegans の研究史物語.この線虫はおそらく分子生物学的にもっともよく研究されている多細胞生物として有名で,どうしてそういう研究が深くなされるようになったのか,そしてそのような研究がどのような研究者,そしてどのような情熱で遂行されていったのかが描かれている.

最初は神経の発生過程をトレースしていくことから始まる.これがとんでもない根気のいる作業で,1mmぐらいの線虫を細かくスライスしたり,えさの細菌を食べているところを顕微鏡でのぞいたりなどの延々と細かい作業を行い,観察し,そしてデータ整理のためには古代のメインフレームコンピューターのOSまで開発しながら進められるあたりの描写はなかなか面白い.つづいて遺伝子のマッピング,最後はヒトゲノム計画と絡み合いながらゲノムの全解読まで進む様子がなかなかよくわかる.研究者コミュニティが小さいところからだんだんと巨大になっていくところも面白い.


ただ研究の中身のところはちょっとはしょったりしていてわかりにくい.ある程度は書かれているのだが,であればもう少し図を入れるとかしてほしいところである.(本書には全く図とか写真が掲載されていない,表紙カバーの線虫の写真のみである.これは残念)

そういう意味での知的好奇心は満たされるが,研究史の紹介なのか,研究者物語を語りたいのか,その辺の焦点がやや散漫で,読み物としてぐいぐい読者を引っ張っていく迫力には欠けるのがちょっと惜しい.この2倍ぐらいのページで丹念に書いていけばもっと面白くなったのではないだろうか.