- 作者: 中村登流
- 出版社/メーカー: 新思索社
- 発売日: 2006/02
- メディア: 単行本
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書店の新刊コーナーで見かけたので速攻で購入して読み始めてみると,おや,これはどうも活版印刷からおこした写植のようだし,なんだか引用論文とか古いみたいだし,ということでよく見ると奥付けの脇にちいさく「新装版」とある.帯にもカバーにも扉にも目次にも何もなく,まえがき,あとがきの付近に「新装版発売にさいして」みたいなものもなく,この売り方は少しいかがなものか.(もっとも有名な本なんだから当然ということかもしれないが・・・本当にそうなのか)
どうも1975年か76年あたりに出版された本の復刻版のようだ.中身はきわめてまじめなもので鳥の社会生態,行動について知られている事実を丹念に描写し,(特に群れ,テリトリー,レックなどが中心)その社会の構造原理がいろいろと考察されている.著者の観察の他,海外の論文も広く紹介されており,もっとも新しいものはデビッド・ラック,ニコ・ティンバーゲンあたりでウィルソンの社会生物学も少し引かれている.
30年前の問題意識によっているので現代から見ると非常に古風である.ウィルソンは引用自体はされているものの,その背景にある社会生物学あるいは行動生態学の考え方は全く受容されていない.
具体的には鳥の社会形成,群れ,テリトリーなどの形成についてその構造を作る原理を(たとえば集中する原理とか分散する原理とかオスの原理とか)見つけてその組み合わせで鳥の社会を説明したいという方向や,社会の構造については種なり個体群に有利なものが自然淘汰されたのだろうという(特に明示的ではなく当然の前提としての)考え方が見いだせる.そのような問題意識で取り組むためにまずよく鳥の社会を詳しく知ろうとする.そして丁寧に丁寧に鳥の群れの行動が具体的に述べられている.この部分(特にエナガやコジュリンなどの日本で観察できる種について)はバードウォッチャーには大変興味深いところでもある.
というわけで非常に面白い読書体験となった.特にスティーブン・ジェイ・グールドのエッセーにあるような「ダーウィン以前の研究者が生物についてどのように考察していたのか,その考察の中にはきわめて真摯で面白いものもある」というようなテーマに似た,学説史の原資料を読むような,不思議な世界に紛れ込んだような深い体験ができた.復刻された経緯,意図はそういうものではなかったのだろうが,このような本は今となってはなかなか入手することは難しく得難いものであると思う.