読書中 「Narrow Roads of Geneland Vol.3」第18章 その2

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)


Clone Mixture and a Pacemaker : New Facets of Red-Queen Theory and Ecology
Proc. R. Soc. Lond. 2002

本書もこれが最後の論文になる.
論文はHAMAXモデルの拡張に関するもの.HAMAXモデルはホストとパラサイトの遺伝的,かつ生態的なモデルであり,ホストは有性と無性で半数体,パラサイトは無性のモデルである.
これによりハミルトンは,パラサイトに対する対抗から,有性が2倍のコストに打ち勝って無性に対して有利になることを示したわけである.


本論文ではこのモデルにデーム構造を取り入れてメタポピュレーションの中で何が起こるかを示したもの.まずはGene for Gene modelで解析し,その後Multi lociのHAMAX modelで解析する.
100*100のデーム構造を作り,隣接デームへの移出率とそのほか全デームへの移出率を別々に設定できるようにして,ホストはサセプティブルとレジスタンス,パラサイトは有毒と弱毒タイプを設定,レジスタンスと有毒にはコストがかかり,弱毒はサセプティブルにのみ感染できるとする.

結果は
このようなメタポピュレーション構造があると,ホストの遺伝子頻度は完全に一様にはならずにフェイズからずれたデームが発現する.そしてここからダイナミックな動きが生じる.(これをpacemaker と呼んでいる)
隣接デームへの移出が多いとリミットサイクルが現れて周期的な挙動となる.
このようなサイクルや位相のずれによる多型は,あるデームに遺伝的距離の離れたペアが生じ,時間とともにパラサイトに追いつかれると,また別の遺伝的に離れたペアに交代するという形になる.

有性と無性の有利さを見ると.隣接デームへの移住が多いとリミットサイクルを通じて遺伝的な多型が保たれるため無性が有利になる場合にがあるという意外な結論が得られた.
優生が有利になるのは,遺伝子座数が多いとき(4以上),分布がより広いとき,ホストの移出率が低いとき,派rさいとの移出率が高いとき,デームサイズが大きくドリフトが小さいとき,ホストの突然変異率が小さいときなどになる.


逆に言えば本シミュレーションは無性が有利になるときはどのようなときかという予測になっている.

ここで実際の生物を見てみると無性と有性がある場合には本予測に適合する事象がよく観察される.
1.農場におけるマルチライン効果.遺伝的に異なる作物を交互に列にした方が病害に強いことが知られている.
2.淡水性の貝の分布.よりパラサイトの多い池の周辺には有性種が,パラサイトの少ない深い部分では無性種が多い.無性種の場合に遺伝的に離れたクローンが同所的に存在する.これは修正説からは説明できない.
3.ミジンコ.無性のミジンコの遺伝的距離を測るとランダムに組み合わせるより有意に離れた無性個体が同所的に存在する.また時間的にその離れたペアが交代する.
4.大腸菌.遺伝的に離れた大腸菌が同時的に存在し,ダイナミックに動いていく.バクテリオファージや人の免疫系に対して対抗していると考えるとうまく説明できる.

以前のモデルに対して集団構造を加えることにより面白い構造が現れてくること自体非常に面白く,それだけでもこの論文は興味深いものになっているが,さらに例外的に無性種が有利になる場合はどのような場合かという予測になっているところが論文を読み進めるにつれて,あっと膝を打つような展開でうならされる.
最後のいくつかの例示もいかにもハミルトンの好みらしく(実際にこの部分を執筆したのはUbeda博士らしい)論文にナチュラリストの香りを添えている.