読書中 「Genes in Conflict」 第4章 その2

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



引き続き少しづつ読み進める.今日は基礎的な記述でそれほどおもしろみなし.


第4章 Genomic Imprinting ゲノミックインプリンティング  その2


1.哺乳類におけるインプリンティングと親の投資


哺乳類の遺伝子のうち少なくとも100がインプリントすると考えられている.ほとんどが胎盤内で発現する.


(1)Igf2Ifg2r


最初に発見されたインプリント遺伝子でマウスにおいて正反対の作用を持つ.


Igf2

  胎児 成体
母由来遺伝子  非発現  網膜,クモ膜でのみ発現
父由来遺伝子  ほとんどの組織で発現  網膜,クモ膜でのみ発現
 胎児がより発育する作用
 インスリン類似の成長因子

ヒトにおいて2つの対立遺伝子ともに活性化するとBeckwith-Wiedemann症候群を発症する


Igf2r

胎児
母由来遺伝子  発現
 胎児の発育を抑える作用
 ただしメカニズムの直接の証拠はない
父由来遺伝子  マウスで非発現
   ヒトでは発現


系統的な考察

Igf2 Ifg2r
単孔類  インプリントなし  結合サイトなし
有袋類  インプリント  インプリント
胎盤類,齧歯目,偶蹄目  インプリント  インプリント
胎盤類,霊長目  インプリント  インプリントなし

先にIgf2がインプリントされ,それに対抗してIfg2rが結合サイトを見つけてインプリントされるようになったと思われるが証拠はない.なぜ霊長類でIfg2rがインプリントされていないのかはわかっていない.
単孔類は卵生であるが,その後哺乳するので,卵生であること自体はインプリントしない理由にはならない.ただ胎盤の方が投資を引き出しやすいのだろう.


2つの遺伝子はコンフリクトから予想されるようにちょうど打ち消しあう作用を持つ.正確にはIgf2は10個以上の遺伝子群からなる複合体で,複雑な相互作用を持つ.


(2) マウスとヒトの成長効果


マウスについてこれまでに27以上の遺伝子の遺伝的,生理的な詳細がわかっている.うち18では早い時期の成長にかかる作用を持ち,血縁理論と整合的である.
マウスのキメラで付加された細胞の両方の対立遺伝子が父由来だと野生型より大きく,母由来だと野生型より小さい.この違いは離乳期以後は現れない.
ヒトでは離乳期以後も親による投資があるので,離乳期以後に発現するインプリントされた遺伝子があるのかもしれない.
Haig and Wharton (2003)はこの観点からPrader-Willi 症候群を解釈し直している.これは第15染色体に父由来のセグメントが欠損して生じるもので,患者の子供は最初の数年,食欲がないが,その後食欲旺盛になる.これにはいかにも母親の子育て負担を軽減する働きがあるように思われる.

すべてのインプリントの効果が血縁効果によって生じる必要はない.インプリントされた遺伝子が多面発現することもあろうし,表現効果の変化の淘汰圧に対して,その効果を持つ変異がインプリンティング方式で初めて生じることもあると思われる.