読書中 「Genes in Conflict」 第4章 その3

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



引き続き少しづつ読み進める.今日はまずインプリントのメカニズム.メチル化の仕組みは用語も難しく読むのに時間もかかる.しかしこの複雑な仕組みは実はいろいろな遺伝要素のコンフリクトの結果と説明され,目から鱗が落ちる気分である.


第4章 Genomic Imprinting ゲノミックインプリンティング  その3


2. インプリンティングの仕組みの進化


(1)インプリンティングのメカニズム

あるDNAが父由来か母由来がどのように区別するのか.
哺乳類のDNAでCのあとにGがくる場合,Cはメチル基がつくことが可能(メチル化)で,タンパク質合成のスイッチとなりうる.メチル化が細胞分裂時に維持されるかどうかは細胞内の酵素によって決まり,DNAの標識ともなる.
インプリントは遺伝子からみて世代によって異なる標識をつけなければならない.いったん個体の生殖系列に入った場合にはメチル化はまずリセットされ,そこから新たに標識をつける.標識の付け方も,オスメス,遺伝子ごとに異なり複雑.
インプリント遺伝子はクラスターを作る.80%のインプリント遺伝子は近くに集まる.受精直後に脱メチル化が起こるが,小さなメチル化標識の(父由来,母由来で)異なった領域(DMR)が生き残り,発達とともに,次々と違いが大きくなる.
メチル化がない状態からメチル化がインプリント効果を持つ変異として進化したとは限らない.逆にメチル化している状態から脱メチル化を変異として生じる場合もある.

標識があるとして,どのように遺伝子発現を変えるのか.(どのように標識を読むか)
単純なメチル化による遺伝子発現抑制から,複雑な仕組みまでいろいろある.全貌は非常に複雑で,まだ明らかになっていない.


(2)インプリンティングのメカニズムの中のコンフリクト

Haig (1997) のシナリオ
最初は単純に父由来と母由来でメチル化のみ異なっていた.そこへこれを標識として利用するcis-acting(自分と同じ領域のDNAに対して調節効果を発現する)インプリント遺伝子が現れ,最初は量的な違いからついに発現,非発現の違いになった.
別のシナリオ
元々父由来,母由来のDNAに対して同じ効果を持つtrans-acting遺伝子(自分と異なる領域のDNAに対して調節効果を発現する遺伝子)がこれを別に扱うように進化した.

もしこのようなcis-actingのターゲットとtrans-actingのインプリンターがともに進化しうるとすると,これらは共進化する.そして単に血縁からのコンフリクトだけでなく,cis-actingのターゲットとtrans-actingのインプリンター間のコンフリクトが生じる.
これは連鎖していなければtrans-actingのインプリンターが同じ親由来のペアになるcis-actingのターゲットと同じ個体にはいる確率が0.5しかないために生じる.またインプリントされていないその他遺伝子とのコンフリクトもあり,メカニズムは複雑になる.


(3)インプリンティングのメカニズムのコンフリクトの歴史

このようなコンフリクトがインプリンティングのメカニズムを複雑にしていると考えられる.
たとえば母由来のIgf2rの特定のCは2細胞期にメチル化され,4細胞期に脱メチル化され,8細胞期に再メチル化される.またメチル化,脱メチル化以外の方法での無効化もあるようだ.父由来と母由来でメチル化は異なっていても発現は同じ遺伝子も多い.
インプリント遺伝子がクラスター化されているのもこのようなコンフリクトの結果かもしれない.ターゲット部分の遺伝子は近くにインプリントされた領域がある方がインプリントしやすいのかもしれない.
細かくそれぞれの遺伝子(父由来インプリンター,ターゲット,母由来インプリンター,ターゲット,非インプリント)の利害を見ると,胎児と母親のコスト比とどの程度一夫一妻的かによって複雑な状況になる.一般に非インプリント遺伝子にコントロールの主導権があるとすると,インプリンター,ターゲットのセットは母由来の場合常に同じ方向に非インプリント遺伝子の干渉を受けるが,父由来のセットは一夫一妻的状況では逆方向の干渉を受ける.このため父由来のインプリントは母由来のものに比べて不安定になると思われる.