読書中 「Genes in Conflict」 第4章 その4

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



引き続き少しづつ読み進める.仕組みの複雑さについての細かな説明とともに,いろいろな現象が説明される.性比の歪曲と絡んでいるという現象も興味深い.最後に起こりうべきいろいろな推測としてインプリンティングのインプリントとか,インプリント領域同士の相互作用と人格(バドコック説のことか?)とかが述べられていて興味深かった.



第4章 Genomic Imprinting ゲノミックインプリンティング  その4


2. インプリンティングの仕組みの進化


(4)インプリンティングのメカニズムの転換

このようなコンフリクトがあるのでインプリントは常にダイナミックな自然淘汰を受けていると考えられる.特に配偶システムの変化や近親交配の程度の変化にあわせて調整が起こっているだろう.
10万年前に分岐した2種のシロアシマウス(1種は一夫一妻,1種は一夫多妻)の雑種から得たデータでは,このような期間でもインプリントの進化が起こっていることが示された.(そして期待通り,一夫一妻種の方がインプリントがゆるめられている)


(5)遺伝子座間の相互作用,ポーラー超優性

その他いろいろな複雑な現象が知られている
同じ染色体にある連鎖領域ではインプリント遺伝子が由来が異なっている遺伝子にも互いに影響を与えあっている.
母由来と父由来が特定のヘテロの組み合わせの場合のみ発現するポーラー超優性という現象が知られている.
自分だけでなく違う由来の遺伝子まで影響を与えるインプリント遺伝子も発見されている.

このような自分と異なる場所への影響の分子的メカニズムは知られていない.


(6)インプリント遺伝子座での歪比

いくつかのインプリント領域では,由来による発現だけでなく,由来による遺伝比の歪比が知られている.
マウスのある遺伝領域について,胎児(オス,メスそれぞれ)が母親の父由来遺伝領域と母由来遺伝領域のどちらを受け取るかを調べると興味深いパターンが現れる.

通常比 7日齢 3週間 生存比
Pat Mat Pat Mat Pat Mat Pat Mat
オス胎児 1 1 153 106 285 294 0.62 0.93
メス胎児 1 1 101 109 238 326 0.79 1.00

最初はオスの胎児で祖父由来遺伝領域を持つものがより頻度が高くなるが,死亡率が高く,最終的にはメス胎児の祖母由来遺伝領域を持つものが生存確率が高くなる.胎児が多くなる最初の現象のメカニズムはよくわかっていない.Y染色体と祖父由来遺伝領域が相互作用している可能性が高い.死亡率に関してもよくわかっていない.母の生殖ラインでのメチル化のリセットが失敗しやすいのかもしれない.これは母親の側(X染色体?)で何らかの性比歪曲が企てられているのかもしれない.


(7)両親的起源,その他の可能性

配偶システムが一夫一妻的であれば,父と母の間にコンフリクトは小さくなる.しかし母と子のコンフリクトは常に生じる.すると特にtrans-actingなインプリンター型の調節は,父母問わず.親による子に対する干渉手段として起源したのかもしれない.そして場合によっては父と母で利害が異なり,インプリンティングに進化したのかもしれない.

インプリンティングは一代に限らない.哺乳類などで雌雄により分散が異なる状況などがある.そういう場合には累代メスにいた遺伝子と最近メスに入った遺伝子とでは周りの個体との血縁度が異なり,利害が異なりうる.
関連してインプリントをする仕組みに関わる遺伝子自体がインプリントされる可能性がある.その場合には3代にわたる血縁度を考えなければならない.もっとも無性で増えた個体のインプリントは変更を受けないことが知られており,インプリントの保存や解読の仕組みはインプリントされていないことを示している.

父親の遺伝子は今後同じメスとまた配偶する可能性を考えてインプリントの程度を調節はしないのだろうか.

逆にインプリントされた遺伝子相互間で,逆にインプリントされた遺伝子があるという条件に対して協力,欺瞞,罰の戦略は生じないのだろうか.そうすると父親由来と母親由来の安定的な人格が相互作用して子供の人格を作るのかもしれない.両親が互いに協力的であれば,子供同士の間も協力的になるのだろうか.