読書中 「Genes in Conflict」 第4章 その5

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



引き続き少しづつ読み進める.
今日は社会行動に関するインプリンティングについて.だんだんバドコック説に近づいてきた.いとこを魅力的と思うかどうかについてインプリンティング遺伝子間にコンフリクトが生じうるとかのところはちょっと脱線気味で面白い.
分散の性バイアスについては説明不足でかなり物足りない.ここは丁寧にモデルでも説明があると知的に満足できるのだが残念.


第4章 Genomic Imprinting ゲノミックインプリンティング  その5


3. 社会的相互作用


インプリンティングは親の直接の投資だけでなく,父由来遺伝子と母由来遺伝子で利害が異なれば,別の状況下でも生じうる.
哺乳類では直接の親の投資期間の後,母親は子供の近くで過ごし,捕食者への警戒から採餌の協力までいろいろな相互作用を行う.
このようなあとになっての血縁との相互作用局面ではいろいろな行動,脳生理.心理コンフリクトにインプリントが現れる.我々ヒトでは後者は欺瞞や自己欺瞞として現れる.
直接の証拠は少ないが,理論的には非常に興味深い問題である.

ジリスの警戒コールを考えてみよう.ジリスはオスが分散し,群れでは母系で近縁者が集まっている.ジリスの父インプリンティング部分は警戒コールをせずに逃げることに関心があり,母インプリンティング部分は逆にコールをすることに関心があるだろう.また父インプリンティング部分はfull-sibとhalf-sibを見分けることに関心があるだろう.

ヒトでも成人の行動にインプリントが関わっている証拠が増えつつある.父由来のX染色体上の遺伝子は女性の社会性や社会的知能に関係しているらしい.そして父由来の第2染色体上の遺伝子は統合失調症に関連があるというデータがある.また自閉症てんかんやトゥーレット症候群はどちらの親由来かによって症状の重さが変わるようだ.


(1) マウスにおける母としての行動

母親は通常自分の母由来部分と父由来部分を平等に子供に引き継ぐ.このため母親としての行動にインプリントはあまり関係がないと思われる.しかしマウスで母の行動に関してのインプリントが見つかっている.
Peg1/Mest, Peg3 はいずれも父由来で発現し,子育て行動に正の影響を与える.これは母の行う他の血縁個体への利他行動と子育てを比べると,父(祖父)由来遺伝子はより子育てを選好するためと思われる.また母が選ぶ配偶相手とその父(祖父)との血縁係数は時間とともに減少すると思われ,これが父(祖父)由来遺伝子にとっては,将来の子より今の子により子育ての投資を選好させると思われる.
しかしこの2つの遺伝子は通常にインプリント効果である胎児の時期の成長促進効果も持つ.おそらくまずこの効果が現れ,次第にメスの子育て行動にも影響を与えるようになったのだろう.
一般的に,淘汰圧がインプリントを進化させるだけでなく,ある遺伝子座がインプリントされると次々に新しい淘汰圧が生じ,新しい効果が進化しやすいと考えられる.



(2) インブリーディングと分散

ある娘が母方の異父兄弟とペア外配偶する場合,この娘の母由来遺伝子から見ると生まれる子供の血縁度は3/4,父由来遺伝子から見ると1/2となる.このためインブリーディング(コストがあるとして)するかどうかについてインプリント遺伝子間にコンフリクトが生じる.この場合母由来遺伝子がよりインブリーディングを好む.娘の母由来遺伝子はいとこにキスしたいと考え,父由来のそれは倫理観を強く感じて不機嫌になるのを想像することができる.
逆に息子の場合には,配偶相手の異父姉妹がインブリーディングのコストを受けることについて,母由来遺伝子がこれを避けようとするのに対して,父由来遺伝子はより(特にペア外配偶であれば)インブリーディングしようとするだろう.
Haig(1999) はこれを細かく分析している.


分散も血縁と大いに関係がある.分散(Dispersal)に性のバイアスがない祖先的状況を考えると,繁殖価の分散(Variance)はオスの方が大きいので,父系遺伝子の集団内の血縁後がより高くなり,父由来遺伝子は分散(Dispersal)の進化についてより主体的な役割を果たすだろう..
親の投資がオスの方が少ないこと,繁殖価の分散(Variance)が大きいこと自体はオスの分散(Dispersal)を促す.
繁殖価の分散(Variance)が大きいと,より兄弟と離れて新しい機会を発掘することが有利になる((私見)ここはこれ以上の説明なし,自明とはいえずちょっと不満)
また近交弱性が強いと双方の性とも近交を避けようとするが,親の投資の多い方(メス)はより近交を避けようとするだろう.するとメスはより選り好む様になり.オスの繁殖成功を下げ,オスはより分散するようになるだろう.((私見)ここもこれ以上の説明なし,自明とはいえずちょっと不満)
いずれにせよ自然淘汰は分散に性のバイアスを作り出すだろう.ほとんどの種ではオスの投資の方が少なく,オスの分散がより進化するだろう.この結果母由来遺伝子はより血縁度が高くなる.そしてこの血縁度は個体の年齢差が小さいほど高くなる.
分散の性バイアスは種によって異なることがあり(例;ヒト,チンパンジー)その場合,インプリント状況が種によって異なることが予想される.