読書中 「Genes in Conflict」 第6章 その2

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements


バイアスのかかった遺伝子変換の2日目
修復や交叉で自動的にG/Cが増えたり,ゲノムの削除や挿入がされたりする傾向があればゲノムの構造自体にも影響があるという説明.
なかなか分子的にテクニカルなはなしなので読むスピードは鈍りがち.



第6章 遺伝子変換(gene conversion)とホーミング(homing)  その2


1. バイアスのかかった遺伝子変換(biased gene conversion; BCG)


(3) BGCとゲノム進化


BGCはきわめて普遍的なのでゲノム全体の構造に影響を与える.もっともはっきりした証拠は哺乳類のゲノムにしめるG/Cペアの比率である.ヒトゲノムではコドンの3番目(GC3)のG/Cペアの比率は40-80%である.もしこれがBGCの影響なら,交叉の多い領域でよりG/Cペアが現れるはずである.いくつかの観察はこれを裏付けている.

  • 哺乳類だけでなくショウジョウバエや線虫やイーストでも交叉の多い領域とG/Cペアの比率の高さに相関がある.相関は小さいが,最近のヌクレオチド変化だけをみると強い相関になっている.交叉領域が長い進化的な時間の中で安定していないとすると納得できる結果である.
  • X染色体上の遺伝子は,相同なY染色体上の遺伝子よりG/Cペアを多く持つ.
  • ある特殊なマウスのゲノム領域でオス内の減数分裂で必ず交叉する領域があるが,そこは極めて高いG/C比率(55-86%)になっている.(Fxy, 偽常染色体と呼ばれるXとYが交叉する領域)

驚くべきことに遺伝子間やイントロンではGC3よりG/Cペアの比率が小さい.また偽遺伝子はそれと相同な遺伝子よりもG/C比率が小さい.これをどう解釈すべきかはわかっていない.また菌類で得られた0.1-1.0%の実効淘汰係数を哺乳類に適用するとすべての中立サイトがほとんどG/Cにならなければならないはずだが,実際にはそうでないことの理由もまだよくわかっていない.((私見)なぜ哺乳類と菌類で事情が異なるのかよくわからなかった)


相同染色体は,単にヌクレオチドが異なる場合だけでなく,挿入や削除があってミスマッチになる場合がある.もしこの場合にBGCに一貫したパターンがあれば,ゲノム全体のサイズに影響を与えるはずである.これにかかる観察には以下のものがある.

  • 糸状菌ではBGCバイアスは挿入や削除を行う突然変異原により誘導された対立遺伝子で強い.
  • もし哺乳類において相補DNAのうち一方が12-246bpの挿入を伴っていると,2:1の確率で削除により修正される.12bp以下の回文的な挿入は逆のバイアスを持つ.もしこのバイアスが減数分裂時に現れるならゲノムは縮小傾向と短い回文コードが増える傾向を持つだろう.
  • Fxyでは祖先型と子孫型で3つのイントロン領域が比較された.いずれも劇的に縮小していた.削減方向にバイアスがあるのかもしれないし,短いDNAシークエンスの方が安定的な2次構造を作るのかもしれない.
  • 哺乳類のゲノムには,G/Cの多い領域ではイントロンが短く遺伝子の密度が高いという全般的な傾向がある.

これまでの観察事例はいずれもゲノムの削減方向を示唆するものだ.逆に追加方向にバイアスが生じる事例,あるいは条件があるのかどうかは興味深い問題だ.もしこのような傾向があれば偽遺伝子やトランスポーザブルエレメントの存在理由になる.

さらにゲノムに繰り返し構造が多いのもBGCによるものかもしれない.Fxyの縮小した領域では繰り返しのミニサテライトが観察された.またミニサテライトはG,Cが多い領域に多かった.またヒトのミニサテライトの減数分裂時の観察によれば,繰り返しのコピーにつながる変換がよく見られた.ミニサテライトと交叉には何か深い関係があるように思える.いずれにせよBGCはゲノム全体のサイズと構造に大きな影響を与えていると思われる.


(4) BGCと減数分裂カニズムの進化


DNA修復や交叉が始まるところでは,この作用の結果としてその部分の遺伝子が変換され,失われる.
このことには興味深い含意がある.

まず遺伝子組み換えに強い淘汰圧がかかっている状況を考えよう.このような淘汰は交叉を始めるcis-actingな遺伝子を蓄積させるように思うかもしれない.しかしこの部分は失われやすいので,遺伝子頻度を上げるのは困難である.私たちはこのような場合にはtrans-actingな遺伝子が選択されると考えている.つまり交叉はその識別領域に賦課されるもので,自分でそうなるように進化するわけではない.つまり交叉自体遺伝子コンフリクトの例なのだ.

2番目に,交叉を行うcis-actingな遺伝子は,行わない変異遺伝子に比べて失われやすい.では実際にあるcis-actingな交叉を始める遺伝子はなぜ存在しているのだろう.
1)交叉の利益がコストを上回る,2)その遺伝子には交叉とは別の利益がある,3)交叉遺伝子最近の変異で,まだ交叉を行わない変異が発生していないか,発生していても淘汰過程上にある.
いずれにせよ交叉の利益がそれほど多くないなら,交叉遺伝子は淘汰される.このような過程が交叉の細かな発生確率の変化に影響を与えているのだろう.