読書中 「Genes in Conflict」 第6章 その4

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements


今日はホーミングの進化的な動態の予測.このようにホストに害を与えない利己的遺伝要素は速やかに固定することになるはずで,そこからは劣化するだろうし,なぜ現在観察できるのかという疑問からこれは種間で水平伝達しているに違いないとつづくくだりは圧巻である,



第6章 遺伝子変換(gene conversion)とホーミング(homing)  その4


2. ホーミングとレトロホーミング


(4) 水平伝達,劣化,消失の進化的サイクル,


ドライブが強くて有害効果がないのなら,HEGはすぐに広がり固定するだろう.で,そのあとどうなるのか?
もはや見つけられる認識領域はなくなるので,すぐに酵素生産の有利さはなくなり,遺伝子は劣化し消失するだろう.ではなぜ今ここにHEGがあるのか?
おそらくHEGは種間で水平伝達されるのだろう.そして有効なHEGのみが水平伝達できるために,HEGは消失せずに現存するのだろう.つまり劣化して消失するまでに少なくとも1種に水平伝達できれば,HEGは進化的時間の中で存在し続けられる.
このような考え方の証拠は近縁の数種のイースト菌におけるwVDEの研究から得られた.wは20種のうち3種で有効,11種で機能せず,6種には存在していない.そしてこの分布は系統分岐のクラスターとは独立であり,さらにwの分子の系統とイースト菌の分子の系統が独立であり,かなり頻繁な水平伝達,そして獲得,劣化,水平伝達のサイクルを示唆している.

もしこのようなモデルが正しいなら,HEGは水平伝達能力が高いものが選択されていることになる.すると種間で広がるためには認識サイトは種間で保たれている領域のものが望ましい.実際にHEGは遺伝子間領域より遺伝子領域をより認識サイトにしている.そしてその変更がアミノ酸の変更を伴う部分を認識サイトにしているものが多い.


では遺伝子間領域をターゲットにしているHEGはどうして存在できているのだろうか?
イースト菌のHEGであるENS2では以下のことがわかっている.
対応しているエンドヌクレアーゼは,この遺伝子自身がコードしているタンパク質と核遺伝子がコードしている熱ショックタンパク質の結合したヘテロ二量体となっている.そしてこの核遺伝子による熱ショックタンパク質ミトコンドリアに送られるタンパク質の分子シャペロンになっている.このように二量体になることによりエンドヌクレアーゼの特異性は大きく減少しており,その結果ミトコンドリアのゲノムを30カ所以上で切断する.このようにして二量体になって切断サイトを増やすことにより,この遺伝子は遺伝子間領域をターゲットにしつつも存続しているのではないかと思われる.


このような水平伝達の必然性は,なぜHEGが体制の単純な生物に多いのかを生殖系列へのアクセスが容易なためと説明する.イースト菌では種間の雑種,捕食,環境にでたDNAを獲得等のことがあり得るのだ.


最後に核のrRNA遺伝子をターゲットにしたHEGは,浄化選択(負の選択)が弱かったり存在しないという問題にさらされている.というのは,このような核のrRNA遺伝子は何百ものコピーがタンデムに現れるため,有効,無効様々なコピーが同じ細胞に現れうる.すると有効なHEGは空のrRNA遺伝子を切断し,そして無効なHEGがテンプレートに選ばれる.つまり無効なHEGは有効なHEGに寄生できることになる.実際にrRNA遺伝子領域には,比較したグループ I イントロン領域よりもHEGが非常に多いという観察がある.


(5) イースト菌におけるHEGの飼い慣らしと配偶タイプのスイッチング


イースト菌の半数体世代はaとαの二つの配偶タイプを持つ.このタイプは対立遺伝子のどちらがあるかにより決まっているが,可変的でもあり,aが有糸分裂で増える際にαに変化したりする.この対立遺伝子以外に,サイレントのそれぞれの対立遺伝子のコピーを同一染色体上に複数保持しており,しばしば入れ替わる.この入れ替えは問題の遺伝子座のところで酵素によりDNAが裂かれる形で始まる.その後サイレント遺伝子のコピーに修復されるのだ.
これはホーミングと非常によく似ていて,これを始める酵素の遺伝子HOは明らかにホーミング遺伝子VDEから派生したものだ.これはホストのために働くように飼い慣らされたHEGといえる.

このホストの利益というのは正確には何なのか.機能としては同じクローンの配偶タイプを変更することになる.すると自家配偶できることになる.イースト菌にとってのクローンとの配偶による明らかに利益の一つは,利己的なプラスミドやRNAウィルスのような利己的な遺伝要素の蔓延を防げることにある.
イースト菌は二つの非常に広く見られるトランスポーザブル要素を欠いており,これは強い近親交配の結果だと思われる.