読書中 「Genes in Conflict」 第7章 その2

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



トランスポーザブルエレメントの集団動態.利己的な遺伝要素であり,かつ通常ホストに有害な効果を持つために,利己性と有害効果がトレードオフの関係にある.またトランスポーザブルエレメントでは単に分離比を歪曲するのではなく,コピーでどんどん増加することが可能なのでいろいろな集団動態的な問題が生じる.今日は入門編


第7章 トランスポーザブルエレメント(転移因子)  その2


2. 集団動態と自然淘汰


トランスポーザブルエレメントの集団動態は複雑だ.それはコピーで増えるので活性が高いと増えるが,高すぎるとホストに有害になって自然淘汰で取り除かれるだろう.またゲノムにどのくらいトランスポーザブルエレメントが乗っているかでもこの閾値は違ってくる.また同時に複数のトランスポーザブルエレメントが活動するとあるタンパク質がどのエレメントに作用するかを巡って相互作用が生じる.


(1) 転移率と削除率


他の利己的な遺伝要素に比べてトランスポーザブルエレメントの転移率は低く,変異幅が大きい.ショウジョウバエP因子の研究ではオスのみP因子を持つ交配の場合,0.25(1世代あたり1エレメントあたりのコピー率),オスメスともに持つ場合には0.005,近親交配の系統では6.9*10-9であった.
LINEやレトロトランスポゾンではこれは10-4のオーダーである.そしてこれは削除率(10-6)よりは高い.
この程度であっても進化的なタイムスケールでは大きな影響がある.コピー率が10-4のオーダーであっても,もし自然淘汰に中立であれば23,000世代で10倍に増えるのだ.


(2) 自然淘汰の影響


実際にはトランスポーザブルエレメントは有害なので自然淘汰に影響を受ける.ショウジョウバエの研究ではP因子が多いと染色体が壊れるし,また有害な突然変異を生み出す効果もあり,致死でなくとも適応度を下げる.


(3) ショウジョウバエにおけるP因子の広がり


P因子はショウジョウバエの遺伝子プールにたかだか数十年前に侵入した.1960年以前に分離された系統からはP因子は見つからない.そしてその後野外から得られた系統にはP因子が含まれる.今や野外集団はすべてP因子が観察される.
そしてP因子がある系統の方が変異率が高いのだ.つまりP因子はホスト生物にとり有害であるにも関わらす利己的な遺伝要素として遺伝子プールに確立していったことを示している.
P因子はこの活性を抑える作用のあるX染色体の特定部分に多くみられる.これは自然淘汰の影響を示しているのかもしれない.