読書中 「Genes in Conflict」 第7章 その5

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



トランスポーザブルエレメントの集団動態.
トランスポゾンはいったんある種に侵入すると,寄生タイプが広がりそのうちに絶滅しやすい.すると現在アクティブなトランスポゾンが存在しているためには種間の水平伝達していなければならない.そして理屈通りに,ごく最近P因子はショウジョウバエに侵入しているのだ.なんだかできすぎているような美しいお話である.
ホスト集団のインブリーディングとの関連はなかなか面白い理論的な可能性だ.


第7章 トランスポーザブルエレメント(転移因子)  その5


2. 集団動態と自然淘汰


(10) 水平伝達と長期的な持続


DNAトランスポゾンは,ある遺伝子プールに侵入すると,まずどんどん増加し,増加するとトランスポザーゼを作ることがコストになり,寄生タイプが増え,最終的に絶滅する.ではなぜ現在多くのトランスポゾンがあるのだろう.答えは種間の水平伝達である.ある遺伝子プールから別の遺伝子プールへ絶滅までに1回以上水平ジャンプができればそのエレメントは永続できる.
このような頻繁な水平伝達の証拠はあるのだろうか.
ショウジョウバエD. melanogasterP因子,hoboの分析からは,これが最近D. melanogasterの遺伝子プールに侵入したものであることがわかっている.
mariner因子も数種のショウジョウバエ,その他の昆虫の間で水平伝達している証拠がある.
このほかにも蛾とその寄生バチ,サカナとカエル間の水平伝達が見つかっている.また分布が無脊椎動物,菌類,植物にまたがっているものもある.これらのトランスポーザブルエレメントはホストのゲノムへの特異性をあまり持たないことを示している.実験してみるとmariner因子はあまりホストを選ばないが,P因子は双翅目に特化している.


LTRレトロ要素も種間水平伝達する.ショウジョウバエcopia因子で最近の水平伝達の証拠が見つかっている.
あまり普遍的ではないようだが,LINEにも水平伝達するものがあるようだ.


水平伝達のメカニズムはわかっていない.可能性としてありそうなのはウィルスによるものだ.そのほかにはハチ,ダニのような昆虫への寄生体による昆虫間ので伝達,アリマキによる植物間の伝達などの可能性がある.


(11) インブリーディング集団とトランスポーザブルエレメント


ホストのブリーディングシステムはトランスポーザブルエレメントにとって重要だ.インブリーデングがあると挿入はホモになりやすく,ホストに劣性の有害効果が現れやすい.するとネットの繁殖効率Rは低くなる.またインブリーディングはホスト個体間のエレメントコピー数の多様性を増加させ,エレメントを減少させる自然淘汰を効きやすくさせる.
強いインブリードを行うイースト菌S. cerevisiaeにはDNAトランスポゾンやLTRレトロ要素は見つかっていない.(このゲノムは非常に密なのでトランスポゾンの有害効果が現れやすいという性質もある)

インブリーディング集団では娘エレメントは親エレメントとより長い世代に渡って同居する.(組み替えにより離れにくいということか?)このためより有害効果の小さいトランスポジションへの淘汰が強いだろう.このことにより進化的に安定な転移率はより低いだろう.実際に自家受精するC. elegansA. thalianaのトランスポーザブルエレメントの活性はD. melangasterZ. maysよりも小さくなっており,この仮説の予想と一致する.