読書中 「Genes in Conflict」 第9章 その2

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



B染色体のドライブの仕組み.こいつは分裂時にどちらかの細胞に2個,もう片方に0個はいることによりドライブをかけるのが基本らしい.前章でのフィーメイルドライブと同じく極体より卵を選んでもよいし,体組織から生殖系列へ分かれるときなどに生殖系列を選んでもよい.(植物の栄養体生殖では機会が多いだろう)PSRという現象も面白そうだ.


第9章 B染色体  その2


1. ドライブ


B染色体にとってドライブは理解のキーであるが,分子的メカニズムはあまり知られていない.これからドライブがよく知られているものについてみていくが,実はドライブもドラッグもしないBがかなりの数で見つかっていることも強調しておきたい.
我々はアウトブリードはBの成功に寄与すると考えているし,植物でのその証拠をみていく.


(1) ドライブのタイプ


Bはメスの減数分裂時に卵極の方に移動することによりドライブすることができるし,例外的ないくつかのBはAを殺すことにより広がる.
しかし特に普遍的な傾向として,Bはすべて相同染色体の不分離(nondisjunction)によりドライブをかける.これによりBは娘細胞に2つ入ったり,まったく入らなかったりすることになる.この2つはいる方向が非生殖系列から生殖系列だったり,同じ生殖系列内でもより多くの娘細胞を生む効果がある方向だったりしたときにドライブがかかることになる.(なおB自体はその部分が大きいために複製が遅れる効果があることになる.このためより娘細胞を増やすには何らかの遺伝子が発現しなければならないと思われる)
もっと細かくみるためにステージごとに分けて考えよう.


a. 減数分裂

キク科のセイヨウニガナでは,単一のBが,通常の栄養部において貞節に複製しているが,しかし栄養生殖する1-4日前からはnondisjunctionが生じ始める.バッタでも体組織と生殖組織の分離に際してのいくつかの例が知られている.


b. 減数分裂

減数分裂におけるBのドライブは最初にユリ(キバナノヒメユリLilium callosum)で見つかった.1Bのメスの卵のうち80%が1Bであった.そしてこれは減数分裂時に80%のBが胚孔側(胚珠の先端側)の極に潜り込むことによって生じる.これによりユリのBはその有害効果にもかかわらずに存在している.
似たような例はバッタの一種で知られる.紡錘体が非対称で,Bはより卵に潜り込む.Bはオスではドラッグするがネットの影響はプラスになる.


c. 減数分裂

被子植物でもっとも普遍的なB染色体は,減数分裂後のオスの配偶体成長時(花粉管形成時)に生じる.Bはnondisjunctionを起こし,花粉管の通常核ではなく生殖核である精核に選択的に入り込む.これは花粉管成長時(強い花粉間競争がある)にBによる有害効果を避ける意味でも巧みな方法だ.ライ麦では奇妙なことにBのある花粉の方が花粉間競争で有利になる.
草木では花粉管形成第一分裂時には紡錘体が非対称になる.生殖核方向による分厚く短く,逆方向に細く長くなる.このこととドライブのメカニズムとの関連はよくわかっていない.


d. 受精後

トウモロコシではBを持つ精子が受精競争で有利になる.Bを持たない精子を直接攻撃するタイプのものは見つかっていない.これは簡単に進化できそうな気がするので謎だ.著者はこれを2倍体制限を持たないために「意地悪」行動をとらないのではないかと推測している.自分を持たないものを攻撃するにはそもそも相同部分を認識できなければならない.これができないとでたらめにAを傷つけることになりコストが高いのだろう.


e. ドライブの異常モード

PSRというのは半倍数体のハチにおいて,B染色体が精子経由で卵に入り,そこのA染色体を破壊してメスになるべき卵をオスにしてしまう現象をいう.Bは性比がメスに傾いているときに利益を得る.(!)
別の2種では偽受精(pseudogamy)を行う精子経由でBが卵に入り込む.
雌雄同体のヒラムシでは有性生殖と無性生殖を行うが,無性生殖の時には偽受精を行う.この場合にもBが卵に入り込む.Bは無性生殖系列間をジャンプできることになる.Bの表現型に与えるコストは小さく,一部の集団でしか観察されない.

アマゾンのカダヤシ類で同様のシステムが見つかっている.この種類は近縁種の精子を単為生殖のために使っている.このときに種間でマイクロ染色体が受け渡しされる.これはもとの種に戻らないために,ドライブとはいえず,もとの種内で選択的に有利になるわけではない.


f. 発生における結節ポイント

Bが有利になるような発生上のポイントはそれほど多くはない.
動物においては通常2つのみである.ひとつは多細胞生物の帰結(生殖系列への分岐)であり,もうひとつは異型接合の帰結(メスの減数分裂)である.
しかし理論上はそれ以外でも起こりうる.生殖系列はいったん生殖系列になってからも体系列への分岐を生じうる.このような分岐はすべてBに利用されうる.
実際にはこのようなことは生じない.実際の発生では体系列と生殖系列の分岐はただ一度のみ,生殖腺の体組織が様々な組織に分岐する場所と離れて生じる.