読書中 「Genes in Conflict」 第9章 その5

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



B染色体がホストの表現型に与える効果について.基本は余分なものを複製するのにコストがかかるということだが,詳細はいろいろあるらしい.より厳しい環境のもとでB染色体が少ないというのは自然淘汰の圧力がきちんとでているようで美しい結果のように見える.


第9章 B染色体  その5


2. 表現型への影響


利己的遺伝要素によく見られるように,B染色体の表現型効果も控えめだ.成長や発達に与える影響はわずかである.例外として植物では繁殖率に影響を与える.
一般的にBはゲノムサイズを大きくし,細胞分裂の効率を妨げる.またB染色体数が奇数の時の方が表現型効果は大きい.


(1) ゲノムサイズ,細胞サイズ,細胞周期への影響


B染色体があたえる直接の影響はゲノムサイズ,細胞サイズ,細胞周期へのものだ.Bはコンパクトになっているのでその相対的なサイズより大きな影響があることが予想される.しかし実際にはその影響は控えめだ.これがAによる抑制の効果かどうかはわかっていない.
B染色体のある細胞の細胞周期がのびると逆にドライブはかかりにくくなる.
ただ実際にB染色体は通常の染色体より格段に小さいことが多い.


(2) 外部表現型への効果


Bは植物において,繁殖や開花についてはネガティブな影響を与えるが,成長や健康についてはポジティブな影響を与えることがある.ライ麦の栽培品種では繁殖について強い人為淘汰がかかったため,野生集団と異なりBはみつからない.
動物ではおしなべてネガティブな影響が観察されている.


(3) 体組織からの消滅


B染色体が不定根,主根などの体組織から消滅している植物がいくつか見つかっている.なぜこのような性質が多くの種で進化していないのだろうか.ひとつにはこのような性質があると生殖系列でA染色体に利用されやすいからではないかと思われる.


(4) B染色体の数と偶数・奇数効果


ホストへの表現型効果はBの数に影響される.少数の時には有益なBもあるが,多くなるとたいがい有害である.実際,Bが1-2の時には成長が早く,それ以上になると遅くなる植物が見つかっている.ドライブがあれば有益な数を超えて増えてしまうことは予想される.
ほとんどの種ではBを3つ以上持つ個体はまれである.中には非常に多いBを持つ個体がよく発見されるネズミの1種もある.

また表現型効果は面白い偶数・奇数効果を持つ.奇数の時に有害効果が大きいのだ.縦軸にホストへの効果,横軸にBの数をプロットするとジグザグになる.クモの一種では寄生虫に麻痺されやすくなる効果で偶数の方が大きいという例外がみつかっている.

この偶数・奇数効果は核のレベルでもみられる.核タンパクやRNAの合成量についてこの効果が見つかっている.

なぜこのような偶数・奇数効果があるのだろう.考えられるのは2倍体のもとで進化してきた細胞は対合しない染色体があると分裂メカニズムが乱されやすいのではないかということだ.


(5) より厳しい環境のもとでのB染色体の影響


より厳しい環境のもとでB染色体の有害効果が大きくなるということについて間接的な証拠がある.
Bはホスト集団においてその中心でよりみられる.しかし環境が厳しいと考えられる周辺では少ない.また植物の実験では集団密度が高いと有害効果のあるBは減少する.
バッタの一種Myrmelotettix maculatusではよりよい環境と思われる英国の暖かい乾燥したところでBが多い.周辺集団には少ない.夏の平均気温とBの数が相関している.
おそらく表現型に与える有害効果が厳しい環境ではより影響を与え,淘汰されるのだろう.ただしこれはドライブ自体は環境に左右されないという仮定に基づいている.気温がドライブに影響を与えていても不思議はないし,実際に低温でドライブは弱くなるようなので,これも要因の一部であり得る.
ブラジルの魚Astyanax scabripinnisでは上流の個体にはBが観察されるが,下流では観察されない.この魚は上流地域に適応していて下流に流されてくると考えられている.
同様の例は他にも見つかっている.


(6) ドライブを行う性は(有害な)表現型効果の現れる性と関連しているか


2つの考え方がある.
ひとつはBの効果をより改善する表現型効果を持つ方の性でドライブが現れるというもの.つまりBの有害効果を和らげることができる方の性でよりドライブするだろうというもの.この場合,ドライブをしない方の性で有害効果がより現れることになる.
ふたつめは,逆に,ドライブそれ自体が減数分裂でより乱れを生じさせるので,ドライブを行う性の方で有害効果がより現れるというもの.
植物はほとんど雌雄同体なので,Bからみると成長より繁殖に与える効果が問題となる.このためBをより増やせるような性でよりドライブを行うようになるだろう.(つまり前者になるだろう)
これまでの研究では特にはっきりとした傾向は出ていない.全体的な傾向としてはドライブはよりオスで多い.しかし表現型効果はそうではない.また生物群により傾向は異なる.バッタでは表現型効果はオスにのみ現れる.しかしドライブは特に傾向がない.