読書中 「Genes in Conflict」 第9章 その7

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements


有益なB染色体.今日はどのような現象が知られているのかの紹介.
どうして有益なのかはちゃんと説明がないが,要するにB染色体状に有益効果のある遺伝子があるという理解でいいのだろうか.B染色体の数が増えると有害効果の方が大きくなるのが通常らしい.



第9章 B染色体  その7


3. 中立的,あるいは有益なB染色体


(1) 有益なB染色体


B染色体を持つ少数の種ではBは有害ではなく,またドライブによって保たれているのでもない.伝達に対しては中立であったり,弱いドラッグを示したりする.このようなBは(特に数が多いと)通常のホストへの有害効果を持っているが,それとともにホストが若いときに(特に環境が厳しいとき)強い有益効果を持っている.このような有益なB染色体が通常のB染色体から進化した(ドライブをしていたものが中立やドラッグになるようになったか)かどうかはわかっていない.
有益なB染色体はユリ科やイネ科の植物でみられ,中立的なB染色体はバッタで見つかっている.


a. セイヨウアサツキ
もっともいい有益B染色体の例はネギである.英国における栽培されたセイヨウアサツキでは7月には55%,8月には64%の種子からB染色体が見つかった.これらは発芽後の種子の死亡率が97%の時期である.特に乾燥がBを持つ個体にアドバンテージを与える.これ以外の表現型効果ではBは通常通り有害である.
交配実験ではBはドラッグを示している.これは花粉でも種子でもみられ,平均の伝達率は40%である.またこの伝達率はB染色体の数によって(偶奇の影響も含めて)影響を受けない.しかし野生集団でのいろいろな観察では,川の流域集団ごとに変異がある.集団によってはBが少ないときにドライブを見せるのだ.この種ではB染色体自体非常に多型で12種類以上ある.
セイヨウアサツキは自家受粉可能で,栄養繁殖も行う.おそらく高いインブリード比率がBを増やし,また無性生殖を増やすのだろう.(無性により減数分裂をカットできる・・・(私見)Bが有益なので減数分裂をカットしてドラッグを防いだ方がホストにとり有利ということか)自家受粉は強い近交弱性効果がある.アウトブリード比率は80%程度と推測されている.


b. ホソムギ(牧草などに利用される多年草
ホソムギのB染色体がドライブするかどうかわかっていない.しかし密度が高いときにはBを持つ個体のほうがより生存率が高い.全体的な効果としてはBは有害なので,非常に厳しい環境の時にのみ有益になるということだ.これは2.(5)で述べた全体的なB染色体がより厳しい環境が少なくなるという傾向と逆の現象を生じさせる.
ホソムギはB染色体が多くなるとキアズマが減るという現象でも通常と逆のパターンをとる.


c. Nectria haematococca(植物病原体で子嚢菌の一種)
Nectria haematococcaは9種の植物,1種の動物に病原体として寄生し,また腐生菌として自由生活も行う.寄生する能力はホストの毒をを非メチル化することにより無毒化することによっている.
ピサチンを非メチル化する遺伝子は時に減数分裂で失われる染色体上にある.これにより生じた株はピサチンを無毒化する必要が生じるまでは問題なく生存でき,この場合問題の染色体は,ある意味でB染色体と似たものということになる.