読書中 「Genes in Conflict」 第10章 その2

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



ゲノミックエクスクルージョンの最初はPGL.今日のところではまず淡々と生態が紹介される.いずれ生活史とPGLについて深い説明があるという予告付きだ.

まずカブリダニ.
カブリダニは100種もあるグループで,有性生殖種,無性生殖種両方あるらしい.私は不勉強で,あまりみたことないが,農業関係で害虫ハダニの天敵だったりするので,天敵利用の生物農薬としてそれなりに研究が進んでいるらしい.http://www.h.chiba-u.jp/insect/acari/guide/index.htmlに図鑑がある.
図とかみると,ほとんどぐちゃっとした体型で眼も触角も羽もない,世代は1週間前後でただただハダニを食べるマシンという感じらしい.
わかっている有性生殖種はずべてがPGLを見せ,オスは半数体,受精後発生を始め2日以内に父親由来のゲノムが排出される.生活史は局所的配偶競争的で高いインブリーディングを示す.そのため性比はメスに偏っている.


次はカイガラムシ
これらは6000種もあって植物に外部寄生する.植物の一転から栄養を吸うので定住性が基本.このためやはりインブリーディング,局所的配偶競争が問題になり,性比は母親のコントロールになるようだ.一部共生細菌がメス体内のみにはいるということが報告されており,これはなかなか面白い現象のようだが深い解説はない.
そもそもこのグループはPGLだけで3種類を見せるらしい.父親由来ゲノムがまず異質染色質で不活性になってから排除されるか,いきなり排除されるか,また排除される時期によってlecanoid, comstockiella, diaspidと名前を付けられているらしい.とりあえず究極因的な説明はなく,今日のところは So What?という感じだ.



第10章 ゲノミックエクスクルージョン その2


1. PGL,準半倍数体


単純なPGLはダニ,カイガラムシ,甲虫,そしておそらくトビムシでみられる.この分類群ごとにみていく.とくにPGLが進化する要因に深く関わる自然史に注意を払うことにする.最後に複雑なシステムの一部にPGLがみられる双翅目昆虫をみる.


(1) ダニにおけるPGL


カブリダニは植物食のダニを襲う捕食性のダニである.殺虫剤耐性の交雑個体の観察や,X線照射され遺伝子が致死となったオスからも息子は生まれることから,排出される染色体は父親由来のものとわかった.

行動生態や集団生態の研究からは非常に高いインブリーディングとハミルトンの局所的配偶競争モデルへのよいフィットが示唆される.この性比は母親のコントロール下にある.


(2) カイガラムシにおけるPGL


カイガラムシは植物に外部寄生する昆虫で,6000種ほど知られており,オスによるPGLは広く見られる.


a. PGLの3システム

カイガラムシには3つの父性ゲノム喪失のシステムがある.lecanoid, comstockiella, diaspidだ.


b. インブリーディングと局所的配偶競争

オスは通常翅を発達させるが,第3変態期以降は採餌せず,成虫になった以降は寿命も短く,孵化した場所のそばで姉妹と交尾するのではないかと考えられる.ミカンコナカイガラムシでは性比もメスに傾いている.


c. 母による性比コントロール

カブリダニと同じく,母による性比コントロールがあると思われるいくつかの証拠がある.ミカンコナカイガラムシの卵の性比は様々なメスの配偶競争に伴う要因(交尾までの期間,メスの混み具合など)に影響されるが,解釈が難しものもある.Stictococcus(チャイロカイガラムシ?)類ではメスになる卵にのみ体内共生体が入っている.原因と結果はよくわかっていないが少なくとも卵は孵化前にオスかメスかが決まっている.クロシロカイガラムシではメスになる卵は紅色で先に産卵される.