Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements
- 作者: Austin Burt,Robert Trivers
- 出版社/メーカー: Belknap Press of Harvard University Press
- 発売日: 2006/01/15
- メディア: ハードカバー
- 購入: 4人 クリック: 68回
- この商品を含むブログ (89件) を見る
今日はゲノミックエクスクルージョンの最後,雄性発生だ.ウィリアムズは1988年に「たぶんすべてオスの種が見つかるのは時間の問題だろう」という予想をしている.うーむ.メスがメスを産んで増えれば単為発生だが,オスが何かを産むというのは普通はちょっと想像できない,というか定義的になんか変だ.
オスが卵の中で受精後卵のゲノムを排除すればオスのゲノムのみ受け渡されることになると説明されるが,これではあっという間にメスがいなくなってその種も絶滅しそうだ.
しかし実際に3つ見つかっているらしい.うち2つは雌雄同体ということでこれは納得.確かに生殖は続き,受け渡されるのはオスのゲノムのみということになる.しかしよく考えるとやはりこのような雌雄同体生物はメス機能に投資しなくなってしまうのではないだろうか.
読み進めると最初に発見されたイトスギは全世界にわずか231本しかなく,しかも絶滅寸前らしい.まず他個体のオスにゲノムを排除されてしまえば,その種子への投資は停止するだろうと解説がある.またオスへの投資に偏る可能性も指摘されている.さらに近縁種への寄生として始まったのではという示唆もある.これはなかなか面白い可能性だ.
次のシジミ貝も雌雄同体生物だ.近縁種との比較データから子育てをすることと自己受精することが,雄性発生と相関しているらしい.雄性発生は異常な発生をしやすいことから,ある程度多くの卵を産んで子育てにより一定数を育てるシステムの方が異常発生卵のコストをミニマイズできるだろう,また自己生殖ではオスゲノムとメスゲノムが近縁なので,メス機能のコストが小さいだろうとしている.確かにいずれも相対的にコストが小さいのはわかるが,やはり何故このようなシステムが安定するのかは謎だ.もしかしたらこれも絶滅の道をたどっているのかもしれないが,そのことへの言及はない.
最後は雌雄異体のナナフシ.ただし雑種のうち20%程度に雄性発生がみられるということのようだ.そしてどちらかの親種のみのゲノムを持つような個体は親種へ再侵入できるのだろうとしている.するといったん雑種にはいって行き止まりになるゲノムが再度親種の遺伝子プールに戻るために相手のゲノムをけ落としているとみるということなのだろう.これもなかなか面白い.
これで本書も要約の最終章をのぞくと,あと一章になった.
第10章 ゲノミックエクスクルージョン その9
4. 雄性発生(Androgenesis)あるいは Maternal Genome Loss
たぶんすべてオスの種が見つかるのは時間の問題だろう.オスの精子が卵の中で受精後メスのゲノムを排除すればいいだけだ.と1988年にウィリアムズは予測した.そしてその後3種が見つかっている.
(1) 針葉樹 イトスギ
Cupressus duprezianaは雌雄同体のアルジェリアにあるまれなイトスギだ.1970年に231本しか現存しない.これは2倍体の花粉が次世代の核遺伝子を提供する雄性発生を行う.
(2) シジミ貝
いくつかのシジミ貝は雄性発生を行う.
(3) ナナフシ
雑種の内20%が雄性発生になる.卵の中で2個の半数体精子が融合し,卵のゲノムを排除する.このような個体があるとhemiclonal cloneが祖先種集団に再侵入できる.