読書中 「Genes in Conflict」 第11章 その2

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements





ガンに続いては生殖系列で生じる細胞系列間淘汰.これは子孫を通じて受け渡されるのでガンとまったく異なった影響がある.

まずこのような淘汰が本当に生じている証拠が提示される.ショウジョウバエでオス(XY型)に放射線を当てて劣勢致死突然変異を生じさせると,放射線を当ててすぐ交尾したものと20日ほどおいてから交尾したものでは,劣勢致死突然変異のX染色体と常染色体上の割合が0.38:1(ほぼ染色体サイズ比)から0.18:1まで低下する.つまり精子を作る減数分裂の前の生殖系列細胞の分裂において致死突然変異を起こしたものは淘汰圧にさらされており,X染色体は1本しかないのでより強い淘汰圧にさらされているという解釈ができるということだ.この淘汰は生殖系列での細胞分裂回数が多いほど強く働くので,ヒトではかなり強いだろうと推測している.これは利己的遺伝要素というよりホストにとって有益な単純な自然淘汰のような気もする.


ここでヒトの遺伝病の話になり,先ほどとは異なりホストにとって有害に働く生殖系列淘汰の例としてヒトの遺伝病が2つ紹介される.このような真に利己的な生殖細胞系列淘汰は,集団全体では頻度が平衡になっているだろうと推測している.
こはちょっと難しい.まず系列間淘汰はこのような利己的な突然変異率を増すように淘汰圧をかけ,遺伝病の頻度は増すだろう.そして明確には書かれていないが,有害効果によってホスト集団からは取り除かれる淘汰圧がかかるので平衡になるという説明のようだ.しかし集団が絶滅するか平衡になるのかは,自明だとは思えないので,ここはもうちょっと説明がほしいところだった.


一般論としてはこのような利己的な細胞系列淘汰は有糸分裂のドライブなので,生殖系列が分離していなければより有害効果が強く表れるだろうとしている.


続いて生殖系列自体の進化について考察している.
利己的な細胞系列淘汰があるなら,それが生殖系列で生じる方がホストにとってはダメージが大きい.このような淘汰をできるだけ減らすためには生殖系列を分離し,有糸分裂回数をできるだけ減少させることが有効だとしている.ここまでは非常に分かりやすい.続いて,生殖細胞細胞分裂については近隣の体組織細胞のコントロール下に置き,さらにできるだけ同期させることが有効だとする.ここはすぐには思いつかない鋭い指摘だ.
実際に生殖細胞の分裂はこのような特徴を多く持っている.


逆に植物などでは有益な生殖細胞系列淘汰が多いのではないかという議論もあるようだ.よりすぐれた枝はより多くの種子をつけるという考え方だ.しかし著者はこのような淘汰を促進させるような仕組みが見つかっていないことからこのような考え方には懐疑的な見解を示している.



第11章 利己的な細胞系列 その2


1. モザイク



(2) 生殖系列での細胞系列淘汰


生殖系列で生じた細胞系列淘汰は(交叉でなくなることもあるが)次世代に伝わる.
ショジョウバエでは実験室で生殖系列の細胞系列淘汰が示されている.この淘汰圧はかなり高いと考えてよい.


ヒトでは2つの遺伝子病が生殖系列淘汰を示唆している.
まず筋緊張栄養失調タイプ1である.通常20ぐらいの常染色体上のリピートが2000まで増える.
2番目に別の常染色体の優性遺伝病であるアパート症がある.ある遺伝子のある位置のCがGに変異することで生じる.
この2つのケースではホスト個体には不利な淘汰が生じている.


(3) 生殖系列の進化


ホスト個体にとって,利己的な細胞系列の増殖から守りたいのは,生殖系列だ.
ホスト側の戦略としてまず,生殖系列の分離がある.これにより配偶子にいたる細胞分裂数,そして生殖系列の細胞数を減らせる.
2番目に生殖系列の細胞分裂について近隣の体組織細胞の同意がないと行えないようにすることが考えられる.
最後に生殖系列での細胞分裂を同期させることが考えられる.
生殖系列はこれらの特徴を持っている.


Whitham and Slobodchikoff は樹木や長命の植物においてはそれぞれの枝は少しづつ遺伝子型が異なっており,より環境に適応した枝はより大きくなりより花粉や種子を作ると主張する.
このように生殖細胞系列間の淘汰がホストに有益な状況も考えられるが,これまでのところこのような淘汰をより効かせるためのメカニズム(高い変異率を作る仕組み,特定のサイトで変異を高める仕組み,遺伝子変換 gene conversion の仕組みなど)は見つかっていない.おそらく生殖系列で平均して変異率が高まるとホストにとり有害なのだろう.