「重役室のサル」


重役室のサル 人間も組織も、こんなに「動物」だった

重役室のサル 人間も組織も、こんなに「動物」だった



リチャード・コニフは前著The Natural History of the Rich でお金持ちの生態をリポートしてくれてこれは大変面白かった.お金持ち(特にアメリカ人のお金持ち)は社会的な慣習に縛られずに好きなことを行おうと思うと実行できてしまうという興味深い立場にある人たちである.この人たちの行動をみていくと,通常の人間の行動からは見えにくい,深い心理的な傾向が現れてくる.また実名をあげたユーモアあふれる叙述も大変よかった.

この本は邦訳されたが,大幅に抄訳され(特にユーモアたっぷりの叙述がばっさり切られた),章立ても改変された,なんとも悲しいできだった.

これの続編ともみえる本書は,むこうで2005年に The Ape in the Corner Office として出版されたものだ.しかし恐れていたとおりやはり一番面白い実名ユーモアのところが省略された抄訳のようだ.今回は原書の方を読んでいないので抄訳のせいだとは断定はできないが,アメリカの経済界に詳しい人には吹き出さずにいられないような話もあまりなく全般に平板な印象だ.


この本の基本ラインは,生物学,特に霊長類学や,進化心理学社会心理学で得られた知見をまず説明し,それから米国のビジネスの現場でどのようなことがあるのかを語り,それを解説するというものだ.
しかしヒトの本性についての知見以外のものも混在してるし,生物学というより社会心理学や生理学の単にヒトについてのみの知見であるものも多い.生物学的知見からのトピックでも何故そのようなことが進化したのかという究極的な説明はあまり書かれてなく,至近的な要因で説明を終わらせていることが多い.また利他性については進化生物学の本流というより,仲直りを重視するドゥヴァール説に偏っており,そこもちょっと不満だ.

内容的には仲直りの重要性,社会心理学のネガティビティバイアスの知見,階層性,ゴシップの効用,表情の科学,人相についての認知バイアス,動作のシンクロ,採餌理論,恐怖が与える影響,社会心理学のその他の認知バイアスの知見などが取り上げられている.

全般的にいって,ヒトの本性を観察するというスタンスよりも,ビジネスのハウツウもののふんいきが色濃くなっており(特に本書の後半はそういうトーンが強くなる),私のような進化生物学指向の読者にとってはどちらかというとがっかりの内容になっている.まあこの方が,ビジネスコーナーに並べることができて売れ行きもいいのだろうか.残念である.



原書

The Ape in the Corner Office: Understanding the Workplace Beast in All of Us

The Ape in the Corner Office: Understanding the Workplace Beast in All of Us



前著

The Natural History of the Rich: A Field Guide

The Natural History of the Rich: A Field Guide



その邦訳書

金持ちと上手につきあう法  「ザ・リッチ」の不思議な世界へ

金持ちと上手につきあう法 「ザ・リッチ」の不思議な世界へ