読書中 「Genes in Conflict」 第11章 その5

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



今日はキメラの最後.極体が関わる特別なキメラである.
いくつかの生物では極体が何らかの機能を持つことがあるらしい.するとある個体に対してそこでキメラになっている極体はその兄弟に対してより相対的に近い血縁係数を持つことになる.
こういう現象が被子植物の内胚乳と,寄生バチのホスト内に漂う膜とカイガラムシのバクテリオサイトに見られるということだ.何とも不思議だ.何故このような現象が進化するのだろう.ここではその推測すら示されない.極体と卵とのコンフリクトで極体が勝ったという理解をして先に進もう.


被子植物では極体が関わる内胚乳では(理論的な予測通り)より親植物からの栄養吸収に消極的になることが観察されている.これは予想の範囲内だ.


続いて寄生バチの膜.ホストの体腔内を漂って栄養吸収し,化学物質を放出し最後にまた幼虫に吸収される.当然ながらホスト内に兄弟がある場合(親バチが2卵以上産卵する場合)極体の含まれた膜はその出自個体にくらべ兄弟個体により優しいだろう.2卵以上産卵する親にとってはこのほうが適応的なのだろうか?本書ではふれられていない.ちょっと不満だ.
また実際に兄弟個体に優しいという観察があるのかどうかもふれられていない.ただ単一の極体による膜や第二極体が関わらない膜ができないことについて,そうでないと出自個体とまったく血縁関係のない膜が生じて,それは兄弟個体のために出自個体を殺戮する性質を進化させかねないからだと説明している.殺戮膜というのはなかなか怖い.


最後はカイガラムシのバクテリオサイト(共生細菌のすみか)について.これは極体由来の器官が生涯残るという変わった現象だ.これも兄弟に対してより優しいことが予想されるが,実際の観察例はないらしい.(あるとしてどんな観察があり得るのかも興味深いが・・・)
ここではバクテリオサイトでは(体組織と異なり)PGLによりオスのゲノムが排除されないことについて解説がある.共生細菌にオスの体内にあるということがばれると,(共生細菌にとって行き止まりになるので,)その姉妹個体に入っている近縁細菌に有利なようにこのオス個体を殺戮しかねないことから,これを隠しているのではという仮説を紹介している.なるほどと納得しかけたところで,さらに,しかしこのバクテリオサイトにいる父由来ゲノムはやはり行き止まりなため共生細菌と利害が一致するから協力する可能性があると指摘する.ううーん,そういうこともあるかと考えていると.だからこのバクテリオサイトの多核のゲノムは父由来:母由来が1:4であるのではないかと説明する.深い!参りました.


というわけでついに第11章まで読了.後は要約の1章を残すのみとなった.結構感慨深い.



第11章 利己的な細胞系列 その5


2. キメラ


(2) 体組織のキメラと極体


特別なキメラが,極体が残って子孫の特化した補助器官になる分類群で見つかっている.理由はわからないが,このような極体からの補助器官はその個体と別の個体とのインターフェイスとして進化することが多いようだ.この補助器官と個体とはとのコンフリクトは(近縁個体に関して血縁係数が異なるので)近縁個体との相互作用時に生じる.


a. 被子植物と内胚乳

極体のコピーが含まれる内胚乳には,胚には含まれない母ゲノムが含まれることになり,内胚乳の進化は胚との血縁係数の違いによって影響を受ける.より極体のゲノムを含むほど(母親に対して,また他の兄弟種子に対して)よりアグレッシブではなくなるだろう.もし内胚乳がパッシブになれば,胚自体がアグレッシブになるだろう.


b. 寄生バチと胚の外部の膜

多くの寄生バチ種では特別な膜が胚の周りに形成され,胚をホストに固定し,保護し,栄養分を胚に移し,またおそらくホストに化学物質を送り込む機能を持つ.いくつかの種ではこの膜の一部は胚から離れ,ホストの体腔液を漂い,栄養分を吸収し,また化学物質を放出し,最終的に幼虫に吸収される.

個体(胚と膜をあわせて考える)は遺伝的なキメラとなる.この個体内遺伝的多様性のキーパラメーターは母蜂がホストにいくつ卵を産卵するかである.もし複数の卵を産卵するなら,膜の進化は複数の胚に対する血縁係数によって大きく影響を受けるだろう


c. カイガラムシとバクテリオサイト

極体は,カイガラムシの共生細菌を住まわせる特別の細胞(バクテリオサイト)にも貢献している.これらの共生細菌は母から子へ垂直感染する.

このバクテリオサイトやバクテリオームの特徴は,胎盤や内胚乳と異なり,個体の生涯を通じて重要な器官であり続けることだ.異なる血縁係数を持つことから,兄弟への行動に対してこの器官と個体の間のコンフリクトが予想される.
このシステムの起源となぜそのように多様性があるのかは説明されないまま残っている.