読書中 「Breaking the Spell」 第3章 

Breaking the Spell: Religion as a Natural Phenomenon

Breaking the Spell: Religion as a Natural Phenomenon



第3章は宗教の利益は何だろうか?という問いにどう答えるかの方法論について

まず宗教的な人に備わる徳について認めた上で,しかしそれだけで宗教の利益が自明であるわけではない,無宗教の人にも立派な人はいるわけで,だからリサーチが必要だと前置きする.

宗教のコストは莫大なのでこれには説明が必要で,説明は進化的,適応的なものが必要だとする.そして進化的適応的な説明とは何かという例として砂糖産業の成り立ちの説明として植物の種子散布戦略および人の味覚の適応的意義がだされる.小粋な例だ.ここでアメリカ人の多くが進化を認めていないことについての脱線が入り,これは信用している人から進化は嘘だと告げられていることにより生じているとし,そしてそれを主張する人は聖書の記述を理由にするだけでは他人を説得できないことを知るべきだと嘆いている.何度聞いても不思議なアメリカの現象だ.

そして依存症対象物としてのアルコール,性,マネーの進化的適応的説明を試みる.それぞれ簡潔に魅力的な説明がなされる.とても素敵だ.ここで「本質的な」価値があるかどうかということが問題になると議論する.これによると結局本質的にいいものかどうかは進化的に価値があったのかというとところに行き着く.そしてそのもともとの価値(究極因)が無くなっても嗜好だけが残っているかどうかが問題になるのだ.これが宗教をどう考えるかについての基本的スタンスと言うことのようだ.

宗教の進化的適応的説明を試みるにはミームの概念が有効で,さらに誰の利益になっているかが重要だとした上で現在考えられる仮説を並列的に説明する.
1.虫歯説 別の何かのために進化したレセプターを刺激している麻薬という説明.
2.共生説 文化的な共生体だという説 利益を得ているのは人とミーム双方かもしれないし,ミームだけかもしれない
3.性選択説 配偶相手に魅力をアピールするための飾りだという説
4.マネー説 マネーと同じく人々のために非常によいトリックなので独立に何度も発明されたという説
5.真珠説 宗教は美しい副産物だという説

これらはすべて排他的であるわけではないが.どの説が正しいのかについてリサーチが必要で,誰が利益を得ているのかについては問い続けなければならないと議論している.

全体として本章はデネットの進化生物学への理解の深さを見せていて魅力的な文章が並んでいると思う.




第3章 いいことは何故起こるか


1. 一番いいものを引き出す.


2. 誰が利益を得ているのか?


3. 宗教の利益とは何か?


4. 火星人の理論リスト


私たちは価値を認めることについて進化的な理由を持っている.