「森と水辺の甲虫誌」

森と水辺の甲虫誌

森と水辺の甲虫誌



本書は様々な甲虫についての解説を,それぞれの甲虫グループの各専門家が執筆し一冊にまとめた内容がおさめられている.それぞれの執筆者の興味対象が少しづつ異なるので,各章もそれぞれ趣が少しずつ異なっていて,それがまたいい味を出している.分類・系統的観点からの章が比較的多く,行動生態はやや少なめだ.(分類と系統をごっちゃにしては三中先生に叱られそうだが,本書の各執筆者のスタンスはあまりそこにはこだわっていない,どちらかといえばマイヤーの進化分類学説的な趣が濃いような感じを受ける)いずれにしても甲虫好きな人には堪えられない内容だろう.


個人的にはまず最初の海辺にいるハンミョウに心引かれた.こんな美しいものが海辺にいるとは知らなかった.そしてオサムシのトラップや研究のものすごさ(においがとにかくすごそうだ),エンマムシの分類のオタク的な詳細(とにかく深い!),モンシデムシの育児行動(まったく知らなかった),好蟻性の甲虫たち(この章は特に挿絵が可愛い!),アリヅカムシの分類と分布,クワガタムシの多様性と分子系統(もう少し各種のクワガタムシに詳しければもっともっと面白いのだろう),クロツヤムシの亜社会性(これも知らなかった)等々と興味深い話が続いていく.個人的にはキクイムシのインブリーディングを含む行動生態の話題がなかったのが惜しまれる.いずれにしても宝石箱をひっくり返して遊んでいるようで,読み進むのが本当に楽しい本であった.カラー写真や挿絵も楽しい.なかなかいい本だが,楽しい読み物としてはお値段がちょっと張るところは残念だ.