- 作者: Richard Dawkins
- 出版社/メーカー: Houghton Mifflin Harcourt
- 発売日: 2006/10/18
- メディア: ハードカバー
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この章の最後はケンブリッジの幕間劇と題されて,最近(宗教擁護の急先鋒である)テンプルトン基金がスポンサーになっているカンファレンスで,ドーキンスが神学者たちとこれまで説明してきた議論を実際に行った経験を語っている.
その前にこのカンファレンスが聴衆であるアメリカと英国の科学ジャーナリストに,参加費用として15000ドルが払われたものであることを明らかにして宗教擁護派の財政事情の裕福なこととその使い道についてコメントしている.またさらに最近テンプルトン賞を受賞してスピーチをしたフリーマン・ダイソンについてドーキンスがエッジで批判的にコメントしたことについても触れている.ドーキンスとしては単に理神論に立っているとしか思えないダイソンがこの賞の受賞を拒否せずに宗教擁護派に利用されているのが不満なようだ.
中ではデネットがジョークでドーキンスに対して,もしドーキンスがお金に困っても簡単な方法があるとほのめかしているところが笑える.(要するにドーキンスがテンプルトン賞の受賞を拒否しないと基金に対してほのめかせば基金から大金が支払われるだろうという意味)
エッジのホームページ
http://www.edge.org/
問題になっているエッジ上でのドーキンスのダイソン批判 (このページの下の方にダイソンのコメントに続いてドーキンスのコメントが載っている)
http://www.edge.org/discourse/templeton_index.html
さて本題の神学者たちとの議論の感想だが,
まずそもそも神のような複雑なものがどうして生じたかと彼等に聞くと,彼等の反応は,彼等は単に神は科学の外側のセーフゾーンにあると「誠実に」信じている.そしてどのようにして神を知るのかといえばそれは(イエス様にあったことがある等の)主観的な経験ということだ.さらに追求すると彼等は最初の動きは神しかいないはずだというアキナスの議論に逃げ込むそうだ.
面白いのはここからで,彼等はドーキンスに対して「あなたの主張は19世紀的だ」といって攻撃する.なぜこれが攻撃になりうるのかについてのドーキンスの解説は,たとえば「あなたはマリアの処女懐妊を信じますか」と直接聞くのはエチケット違反だと主張しているのだろうというものだ.ドーキンスはこれについて,それがなぜエチケット違反になるかよく考えてみると良いと反論している.それにyesと答えることが当惑的だからだ.19世紀は処女懐妊を教養ある人が信じても良い最後の世紀だったのだ.現在では教養あるキリスト教徒は,信仰上処女懐妊や復活を否定できないが,肯定するのは当惑的なのだ.だから問われたくないのだ.
最後に本章のまとめがついている.
1.人間の知的な難問のひとつはどのようにして複雑なものがデザインされたかということだった.
2.普通は誰かがデザインしたと考える.時計についてはそれは正しい.だから眼や羽根やクモやヒトについてもそれを当てはめたくなる.
3.しかしこれは誤りだ.なぜならそのデザイナーは誰がデザインしたのかという難問に突き当たるからだ.私たちはスカイフックではなくクレーンが必要なのだ.(クレーンとスカイフックについてはデネットの「ダーウィンの危険な思想」参照)
4.これまで発見されたクレーンでもっとも説得的なものはダーウィンの自然淘汰理論だ.我々は生物がデザインされたかのように見えるのは幻想だと今や説明できる.
5.我々は物理についてはこのようなクレーンをまだ持っていない.いくつかのマルチ宇宙の説明はダーウィンと同じような説明ができる.しかしなお幸運な要素に頼っていてそれほど説得的ではない.人間原理はこの幸運さについて説明してくれる.
6.物理においてもいつかもっと良いクレーンが手にはいることをあきらめる必要はない.そして今手にしている弱いクレーンと人間原理でさえ,インテリジェントデザイナーのような自滅的なスカイフックよりはるかによい説明だ.
この議論を受け入れるなら,神はまず間違いなく実在しない.
第4章 なぜこの世にはまず間違いなく神はいないのか
(6)ケンブリッジの幕間劇
デネットの自然淘汰解説書
スカイフックとクレーンの比喩が見事
- 作者: ダニエル・C.デネット,Daniel C. Dennett,山口泰司,大崎博,斎藤孝,石川幹人,久保田俊彦
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2000/12/01
- メディア: 単行本
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