The Creation: An Appeal to Save Life on Earth
- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: W W Norton & Co Inc
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: ハードカバー
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本書はE. O. Wilsonによる環境保護を訴える啓蒙書だ.ウィルソンは社会生物学論争の後,種の多様性を訴え続けており,もう何冊も本を出しているが,本書はコンパクトな170ページ弱の小品である.
本書の主張の特徴はメインターゲットを宗教関係者におく体裁をとっていることだ.ウィルソン自身はアラバマの生まれで信心深いバプティスト派のクリスチャンの家庭に生まれているので,アメリカ南部の宗教的な文化への理解も深いのだろう.本文はDear Pastor(牧師さん)という呼びかけで始まっている.
ウィルソンの呼びかけは次の一点だ.「私たち進化生物学者とバプティスト派キリスト教信者は確かに「進化」については見解を異にしているでしょう.しかし環境保護そして生物多様性保護については合意できるはずです.「神」が作ったこの自然と生物界の多様性を捨て去って良いはずはないでしょう.進化についての見解の違いを超えて環境保護,生物多様性の保護については連帯しましょう」というものだ.一部キリスト教徒の中には終末は近いとして環境保護に無関心な層がいるらしい.そして宗教界はそうではないというべきだという主張だ.いつものようにウィルソンは新しいキャッチフレーズを掲げている.「Creation」という言葉について,進化生物学者から見れば進化によって,キリスト教徒から見れば神によって作られた生物多様性を象徴するものとして扱っているのだ.
第2章では,何故人間にとっていかに自然が大切かということが人々に浸透していないかについて触れている.ウィルソンによればそれは人々が環境について無知なこと,そして科学教育が不足であること,最後に生物学がものすごい速さで進展していて人々がついて行けないことにあるとしている.
第3章以降ではウィルソンの自然,生物多様性の賛歌が収められている.
ウィルソンがいう自然とは昆虫やネマトーダやバクテリアのすむ極小自然も含まれている.その多様性,ボストン湾周辺の島の自然の再生が語られる.そして種の多様性による応用科学面での有用性を述べ,移入種による破壊の恐ろしさを,ヒアリのオレンジ樹への被害説と意外な真犯人さらにアメリカ南部のヒアリについての魅力的な物語として訴える.ここはウィルソンのアリ学者としての面目躍如たるチャーミングなエピソードだ.続いてクズリとミツマタアリの物語.さらに環境心理学,保全心理学とともにバイオフィリアについてもう一度訴える.そしてヒトによる現在の絶滅の様相が語られる.
第9章以降では自然保護に無関心なイデオロギー,宗教への批判がなされる.動物園や植物園のように人工的に生物多様性を保護するのは技術的に不可能なこと,種を絶滅から救えた例はまれであること,大絶滅から自然環境が復活するには10百万年かかること,自然環境の保護は経済的に見ても十分引き合うことが力説される.
つづいて科学の方法論のすばらしさと,知識の統一への野望,生物学の原則(物理化学の法則に従うが創発現象がある,すべての生物学的現象は進化によって作られたものである)記載の重要性とまだまだなされていないこと,教育の方法(まず原則から教えよ,生物学の外側まで広げよ,問題解決の焦点を当てよ,あるところは深く,そして浅く幅広く,自分もコミットせよ)ナチュラリストの育て方,そして市民として科学に貢献しよう(最近の興味ある動きとしてバイオブリッツが紹介される)と,ウィルソンの『最後にこれだけはいっておきたいこと』が,ひとつひとつ,きらきらと輝くエピソードを混ぜながら語られる.ウィルソンもすでに77歳.これはウィルソンの後世代に伝えたい遺言だなあと感じさせる部分だ.
最後にもう一度宗教界に訴えて本書は終わっている.IDのような筋の悪い議論には関わらずに,共通の関心について協力し合おうと訴えている.ひとつひとつの章は短く,しかし素敵なエピソードや最近の発見にも満ちあふれていて,とても77歳の筆によるものとは思えない若々しさだ.しかし続けて読んでいくと,だんだんその自然を慈しむようなまなざしと,どうしてもそれを保全すべきだという静かな熱意が伝わってくる.つい最近ウィルソンはSelected Writings 1949-2006として半世紀以上の自分の文章をまとめた本を出版している.本書はそれとは対照的な小品だ.そしてこれが最後の著書になるかもしれないという思いで書かれているのだろうか,気品ある良い本だと感じられた.
E. O. Wilsonの本
原書出版順で主要な本を紹介してみたい.
The Theory of Island Biogeography (Princeton Landmarks in Biology)
- 作者: Robert H. MacArthur,Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Princeton University Press
- 発売日: 2001/04/01
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1967年.まずこれ,マッカーサーとの共著.生物地理生態学の古典.未読.
- 作者: ロバート H.マッカーサー,川西通晴
- 出版社/メーカー: 蒼樹書房
- 発売日: 1982/11
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今はなき蒼樹書房から翻訳出版されていたので随分前に読んだが,生物学をよりハードサイエンスにするのだという気迫の感じられる良い本だった.残念ながら入手困難と思われる
Sociobiology: The New Synthesis, Twenty-Fifth Anniversary Edition
- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Belknap Press: An Imprint of Harvard University Press
- 発売日: 2000/03/04
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1975年.次はこれだろう.あまりに有名な社会生物学.これは出版25周年記念バージョンだ.
訳本はこちら.結構なヴォリュームで読みでがある.理論を統一しようというものすごい意欲に圧倒される.最終章の人間のところが問題になったとされているものだが,今日的に読むと何のことはない記述だ.むしろ生物学が社会科学を包括するのだという前半部分の方が挑発的だ.
On Human Nature: With a new Preface, Revised Edition
- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Harvard University Press
- 発売日: 2004/10/18
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- 作者: エドワード・O ウィルソン,Edward O. Wilson,岸由二
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1997/05
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1979年.次はこれ.「人間の本性について」は思索社からでているが,文庫になって筑摩書房からもだされている.社会生物学の最終章が問題となった後にもう少し詳しく人間を論じているものとして出版された.当時としては意欲的な書物であるが,現代的に見ると適応についての理屈の詰めは甘い部分が多い.
Genes, Mind, And Culture: The Coevolutionary Process
- 作者: Charles J. Lumsden,Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: World Scientific Pub Co Inc
- 発売日: 2005/09/30
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1981年.人間についての次作は,文化との共進化を扱ったもの.理論的に難解な意欲作という評判を聞いているが未読.最近の文化進化を扱っている書物ではあまり引用されることはない.私の知る限り訳されていないように思う.
Promethean Fire: Reflections on the Origin of Mind
- 作者: Charles J. Lumsden
- 出版社/メーカー: iUniverse
- 発売日: 1999/06/01
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- 作者: C・J・ラムズデン,E・O・ウィルソン,松本亮三
- 出版社/メーカー: 思索社
- 発売日: 1985/02
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1983年.文化との共進化第2弾.こちらは訳本がある.いずれも未読.
- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Harvard University Press
- 発売日: 1986/01/01
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- 作者: エドワード・O.ウィルソン,Edward O. Wilson,狩野秀之
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1994/06/01
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1984年.ウィルソンは一転して,環境保護に執筆活動の重点を移す.Creationでも取り上げられているが,人には自然を愛する本性があり,環境保護には人類にとって非常に重要な価値があることを力説している.
- 作者: Bert Hoelldobler,Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Belknap Press
- 発売日: 1990/03/28
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- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Penguin
- 発売日: 2001/04/26
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生命の多様性 (1) (Questions of science)
- 作者: エドワード O.ウィルソン,大貫昌子,牧野俊一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/11/27
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1992年.生命の多様性という言葉は本書を契機によく使われるようになったのだろう.このあたりからのウィルソンの本のまなざしは限りなく優しくなってくる.
Journey to the Ants: A Story of Scientific Exploration
- 作者: Bert Hoelldobler,Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Belknap Press
- 発売日: 1994/08/05
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- 作者: バートヘルドブラー,エドワード・O.ウィルソン,Bert H¨olldobler,Edward O. Wilson,辻和希,松本忠夫
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1997/07
- メディア: 大型本
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1994年.The Antsを一般向けにおろしたような本.これはさらに美しい図版が満載で,とてもとても楽しいアリの物語にあふれている.私の読んだ昆虫の本では一番の出来だと思う.訳本は入手困難らしい.(今見たら松本先生に並んで辻和希先生が訳者だった)アマゾンのマーケットプレイスに古本が18000円の値段で出されていた.
- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Island Pr
- 発売日: 2006/04/24
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- 作者: E.O.ウィルソン,荒木正純
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 1996/03/01
- メディア: 単行本
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1994年.自伝.とても良い味を出していると思う.
- 作者: Edward O. Wilson,Laura Simonds Southworth
- 出版社/メーカー: Island Pr
- 発売日: 1997/09/01
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生き物たちの神秘生活 (Natura‐eye Science)
- 作者: エドワード・O.ウィルソン,Edward Osborne Wilson,広野喜幸
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1999/01
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1996年.自伝の後はエッセー集だ.書き下ろしではなく,長年にわたり書かれたものを集めたもの.
Consilience: The Unity of Knowledge
- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 1999/03/30
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- 作者: エドワード・オズボーンウィルソン,Edward O. Wilson,山下篤子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2002/12
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- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 2003/03/11
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- 作者: エドワード・オズボーンウィルソン,Edward O. Wilson,山下篤子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/12
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2002年.これも環境保護を訴えた一冊.
Nature Revealed: Selected Writings, 1949-2006
- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Johns Hopkins Univ Pr
- 発売日: 2006/02/15
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2006年.そしてこれが40年以上に渡る執筆活動を記録したセレクティッド・ライティングズだ.
3/5追記
ウィルソンの重要著作の追加
The Insect Societies (Harvard paperbacks)
- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Belknap Press
- 発売日: 1974/01/01
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Pheidole in the New World: A Dominant, Hyperdiverse Ant Genus
- 作者: Edward O. Wilson
- 出版社/メーカー: Harvard University Press
- 発売日: 2003/03/01
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