読書中 「Moral Minds」 第1章 その3

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



道徳が論理でないとするなら,ではなんだろう.第3節ではヒュームの考え方が紹介される.

ヒュームは道徳は感情からくるのだと論じた.私たちは助けることが気持ちよく.だますことには気持ちが悪いのだ.
ヒュームはそれは最大幸福のために功利的にデザインされているのではないか,そしてその判断は行為者受益者以外の第3者たる観察者の感情が基本であり,美的感覚と同じで論理ではないと説明しているらしい.

ハウザーはこのヒュームの解釈について,理屈が道徳判断の後にやってくる事実から見て,現実的だと評している.この場合には道徳は「赤」を感じるように脳内の器官によって「感じられる」ものということになる.


ハウザーは次に仮説的なカント主義者を登場させて,それでは道徳には理由はないのか,それでは他者への説得力がなくなるではないかと反論させている.盗みに快感を感じる人がいればどうするのかというわけだ.このあたりは記述の次元がごちゃ混ぜで読者には不親切だ.事実として道徳判断の基盤がどうなっているかという議論とそれでは困るのではないかという議論とはかみ合わないような気がする.


ハウザーはかまわず.ここでカントに対するピアジェとコールベルグに対をなす心理学者としてマーチン・ホフマンを紹介する.ホフマンは共感empathyを道徳の基礎にすえた.ホフマンははっきりとした発達段階をそれほど強調しなかった.新生児でも親の顔の表情をまねし,共感を得る仕組みがある.そしてこの共感は伝染する.私たちは仕草の多い人と話すとそうなり,相手の年齢や人種の知識により影響される.私たちはカメレオンのように周りの状況に影響されるのだ.


ハウザーはカント=ホフマン的説明の難点としてこれでは何故ある行動が善であるか説明できないし,そして道徳判断とそれ以外の判断の差異も説明できないことをあげている.つまり説明レベルが浅すぎるという批判のようだ.
つまりカントは事実として間違いで,ヒュームは説明として不十分だというわけだ.本命は次節で語られることになる.


第1章 何がいけないのか


(3)感情の道




追記


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人及び動物の表情について (岩波文庫)

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