読書中 「Moral Minds」 第5章 その3

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



第4節は意図的につく嘘について
嘘をつくには事実と異なる概念が他人の心に入りうることを認識することと本当のことを隠して本当でないことを表現することという認知的には2つの技術が必要だ.これが子供でどう発達していくのかが本節の主題になる.


本節ではいろいろな疑問が次から次へと提示され,いろいろな発達心理学の実験が紹介される.ただ結果はなかなか複雑だ.とりあえずいろいろな知見のとりとめのない紹介に止まっている.
私の受けた印象では子供は認知能力が発達するにつれて3歳ぐらいから嘘がつけるようになる.罪のない嘘 white lie と害のある嘘の区別については結果ははっきりしない.ただ4歳ぐらいから相手を気遣う嘘をつくようになる.
また嘘をつく能力も本当に完成するのは10歳ぐらい以降らしい.これは心の理論の発達と制御能力の両方が関わるらしい.


ハウザーは本節の最後を小児性犯罪と子供の証言の信憑性についての実務的な議論に当てている.実際に聖職者による小児性犯罪は欧米ではかなり注目されているらしい.


米国の法廷では子供の証言を許すまで2段階踏む.まず裁判官は子供が真実と嘘の区別がわかるかどうか,そして子供が嘘をつかないことを道徳的にコミットメントできるか,そして良く覚えているかを質問する,これに満足できれば2段目に進む.そこで子供は嘘をつかないことを約束すれば証言が許されるという.


ハウザーはこれに絡んで何点か議論している.
嘘と真実の区別がつけばより嘘をつかないのだろうか?約束をするときにそれにどんな意味があるのかわかっているのだろうか?約束はうまく機能するのか?

猥褻行為をした聖職者から黙っているようにいわれ約束したことと,親や警察や判事に嘘をつかないことを約束したとして後者が優先すべきだと理解するのは難しいだろうといっている.そして子供はいけないことだとわかっていても自分が非難されうる状況では嘘をつくのだとして,子供の嘘が利己的であることを明瞭に示す実験結果を紹介している.


状況が子供にとって非常に厳しい(性的犯罪者はばらしたときに恐ろしいことが起こると脅していることが多い.また性的犯罪では子供もそれに何らかの程度巻き込まれている.)こともあり,難しいことが多いのだろう,ハウザーは片方で全般的にほとんどの子供は真実を言うことにも注目しなくてはならないといいつつも,私たちの法廷は一部の証言させるべきでない子供に証言させていると主張している.要するに法学者はもっと心理学の知見を知っているべきだといいたいようだ.


愛5節はだましの検知について

有名なコスミデスのトゥービィのウェイソンタスクに関するだまし検知の認知モジュール説が紹介され,さらにスペルベルとジロットの反論,コスミデスたちの再反論まで丁寧に説明されている.

このようにもう一度復讐してみるとコスミデスたちの年金バージョンの結果は非常に際だって明瞭だ.


ハウザーはこれらの能力の発達についてニューンズとハリスの実験を紹介している.2-4歳の子供に「報酬を得るなら条件を満たさなければならない」問題の子供版を解かせると,かれらは簡単にそれを解いたという.また意図的な違反と偶然の違反も区別でき,さらに善意であれば罪が軽いという認識まであったと説明されている.要するに子供はきわめて幼いうちからだまし検知ができるのだ.これはこの能力がコスミデスがいうようなモジュールであることの発達心理学から見た証左の一つとなるだろう.


第5章 許される本能


(4)赤ちゃんの嘘


(5)ピノキオの鼻