「ひとりぼっちのジョージ」

ひとりぼっちのジョージ―最後のガラパゴスゾウガメからの伝言

ひとりぼっちのジョージ―最後のガラパゴスゾウガメからの伝言



The Royal Society Prizes for Science Books(ちょっと前まではAventis Prizes for Science Booksと呼ばれていたらしい)の2007年のショートリストに残った本の一冊.(ちなみに一般部門の受賞作はStumbling on happiness by Daniel Gilbertだったようだ)


私が始めてこのロンサムジョージのことを知ったのはおそらく20年ぐらい前のBBCか何かのドキュメンタリーであったと思う.(ロンサムジョージというのはあのダーウィンで有名なガラパゴス諸島に生息する大型のリクガメのうち,ピンタ島に生息していた個体群の最後の生き残り個体の呼び名だ)それ以来特に詳しく知ることもなく月日は流れていた.今年の春から書店では見かけていたのだが,要するに一族の最後の生き残りということで,そういう悲しいお話なのだろうと思ってちょっと手を出しかねていたのだが,上記ショートリスト入りと言うこともあって読んでみた.


本書の趣向としてはロンサムジョージを主題としたいろいろな話題を循環的に取り扱っているもので,特に中心となるストーリーがあるわけではない.発見の経緯,起源と島の個体群の系譜,絶滅危惧種の保護という点からの問題点,移入種による生態系への脅威,自然保護と現地における経済問題の相克,ピンタ島におけるゾウガメ探索,過去の標本採集の歴史,そして今後ピンタ島のゾウガメについてはどのような保護手段があってどうすべきなのかにかかる話題と並んでいる.
全体としては予想通りヒトによる環境破壊と最後に生き残ったジョージにかかるもの悲しいトーンが背景に流れている.その中ではナマコ漁にかける人たちのゾウガメを人質に取る戦術だとか,寿命の長いゾウガメ特有の歴史の生き証人的なエピソードだとかが印象に残る.


起源と分子系統分析による島の個体群同士の関係はなかなか興味深い.ただ島から島にゾウガメが移住できるのかについては浮かんでしばらく生存できる以上ほとんど謎はないように思うが,結構しつこくその解明の経緯を追っていたりする.それよりジョージとエスパニョーラ島の個体群との関係が非常に気になるのだが,そこはあまり詳しく紹介されない.ここは「種」「亜種」問題や保全すべき動物群は何かなどつっこみどころは多いような気がするが残念だ.
保全戦略ということでいえば,ジョージをどの島の個体群のメスと同居させるべきなのか,何故もっとも近縁と考えられるエスパニョーラ島の個体群のメスと同居させないのか,さらには何故ほぼ成功しかけていた精液採取に積極的ではないのかなどについてのCDRS(チャールズ・ダーウィン・リサーチステーション)の見解も説明されていないし,このあたりは読者から見ると物足りない.


豊富なエピソードは裏付けの取材の量を感じさせるし,軽い読み物としては推薦できる.ただ,本書には自然科学ものとしては,そうだったのかという驚き,知識の力に欠けているように感じる.本当に面白そうなところが微妙にずれているような印象もあるし,絶滅保護種やヒトによる自然環境破壊などの訴えもある意味よくある内容で,私にとってはインパクト不足,やや物足りなかったように思う.