Biological Signals as Handicaps
Alan Grafen
Journal of theoretical Biology, 144, 517-546 (1990)
さて前回はモデルの構成と前提条件まで説明した.前提条件を再掲すると
<前提条件>
- は連続で微分可能.
- 広告にはコストがかかる.このため
- 広告の結果メスの反応によりオスは利益を得る,このため
- よりよいオスはより多く広告することにより,より利益を得る,だから が について増加関数になっている.
この4番目の記述は難解だ.
これは私の理解では以下の様になる
そもそもの変数間の関係は以下の図のようになるはずだ.
ここでまず字義通りに考えてみよう.「よりよいオスはより多く広告することにより,より利益を得る」というのは,a が変化したときに,w1 のパスと,p'とw2のパスの両方を通じて与えるwへの影響が,qに対して増加関数になっているということだから,をにかかる2つのパスで偏微分した導関数をさらにで偏微分した導関数が常に正だということになるはずだ.そしてこれはメスがESS戦略P*をとっているときである.
だから以下の式になると思われる.
これは
ここでをよく考えるとメスはオスの質にアセスできないのだから0とおいていいように思われる.すると
これはのときには
ここでグラフェンは前提としてあげていないが,メスがESS時に広告を多いほどオスの質を高く評価するのであればは正となり,上式の右辺は負になる.
さらにここで少なくとも
,が満たされていれば上の条件は満たされる.
そして前提より,であるので. が について増加関数になっている.ということになる.
これは直感的にはグラフで見て,以下のようになっている場合である.
結局私の理解では,「よりよいオスはより多く広告することにより,より利益を得る」という前提は「 が について増加関数になっている」ということではなく「, かつ は正」ということになってしまう.
実際仮にが に関して減少関数になっているとしたなら, が について増加関数になっているとしても,質のよいオスがより広告をすることにより,より利益を得るとは限らないのではないかと思われるのだ.
また前提条件が「 が について増加関数になっている.ということ」だとすると,たとえば「でであっても,の方が絶対値で小さければこの条件を満たす.しかしが十分に大きければ,質のよいオスの方が広告の限界利益が少なくなってしまうだろう.
よく考えてみた結果,結局こういうことではないかと現在は考えている.
まずESSが存在することを証明する前提条件としては「 が について増加関数になっている」ということが数学的に要求される.
そして少なくとも「,」であれば上記「 が について増加関数になっている」は満たされている.さらにこの場合「は正」が満たされる状況においては「よりよいオスはより多く広告することにより,より利益を得る」と解釈できる.
メスの評価関数 P の形状については,pとqが一致すればメスの適応度が最大になるのは自明なので,可能であればAの逆関数としてqを正しく推定できるものになるはずである.そしてこれはAが正直信号戦略であればaに対して増加関数になるだろう.だからこのような解釈は通常妥当なものになる.
そもそもグラフェンはある前提を満たせば正直信号戦略が進化することを証明しようとしているので,その前提条件は厳密に「よりよいオスはより多く広告することにより,より利益を得る」と一致している必要はないのだろう.
もしかすると私が何か見落としているのかもしれないが,いまのところではこれはいったん置いて先に進むことにしよう.
(この項続く)
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