"Biological Signals as Handicaps" by Alan Grafen その5


続いてグラフェンは関数型の具体例を取り上げる.
具体例はオスの適応度関数の形で表され,このような関数になる.


 w(a, p, q)=p^{\small r}\cdot q^{\small a}

一瞬なぜこの形の関数型が例としてあげられるのか混乱するが,要するに解析的に解きやすい形を選んでいるということだろう.  r についてはメスからの評価と配偶成功の関係を表すパラメーターだと説明されている.これが大きいほど質の高いオスが強く選好され,強い一夫多妻的状況になる.
そしてよく形を見ると  a\geq 1 [tex: 00], w_{23}=0」となっている.この場合でも w_{\small 1}/w_{\small 2}q について増加関数になる.

(注)(これまで少なくとも w_{\small 1}/w_{\small 2}q について増加関数になる条件として,私の理解として  w_{13}>0 w_{23}>0 としてきているが,もっとぎりぎりの条件を考えると  w_{13}>0 w_{23}>0 または  w_{13}=0 w_{23}>0 または  w_{13}>0 w_{23}=0 というところまで広げてよいということになる.)


これを一般解に放り込んで,微分を解くと以下のようになる.


  P^*(a)={q_{\small 0}}^{\small {exp(-(a-a_0)/r)}
  A^*(q)=a_{\small 0}-r\cdot ln\left( \frac{ln(q)}{ln(q_0)}\right)

ただし  q_{\small 0} はもっとも質の悪いオスの質,  a_{\small 0} はそのオスの行う広告量を表す.


これにより
  w(a, p, q)=p^{\small r}\cdot q^{\small a_0}\cdot q^{\small -r\cdot ln\left( ln(q)/ln(q_0)\right)}となる.


そしてこれらESS関数型の特徴をグラフ化すると下図のようになる.もともとの  w(a, p, q)=p^{\small r}\cdot q^{\small a} の形のために q については1に近いところでは広告量のコストが急激に低下するので非常に急激に広告量が増加する.このため 0.02\leq q\leq 0.8 の部分を図示している.(グラフェンの論文に出てくる図と q_{\small 0} の値を変えてある.)



まずこのようなある意味不自然なコスト構造でもESSはきちんと正直広告戦略を示していることが印象的だ.そして質の高いオスは最終的に高い適応度を得ている.
グラフェンはここで r を使ってメスの選り好みの激しさ(厳密には質が高いと評価されたオスに交尾がどの程度集中するか)の効果も示している.選り好みが激しいと当然ながら広告量が増える.そして相対的な適応度の差も大きくなる.
グラフェンはここで q_{\small 0} の値が広告量に効いてくることについて議論している.このESSではまず q_{\small 0} a_{\small 0} が初期値としてあり,それから他のオスの広告量が決まる.このため質の低いオスが存在すれば彼の広告量がゼロでも次のオスは何らかの広告をせざるを得ず,順次くりあがる.このため広告レベルはもっとも質の低いオスがどの水準にあるかに左右されるというのだ.(この関係を右側の図で示しておいた)この点についてはモデルの作り方に起因するのか一般的な問題なのか,現在議論されているのをあまり見かけたことはないのでよくわからないのだが,興味深い可能性だ.



ここまでが一般的なハンディキャップシグナルのESS戦略の導出だ.
(この項続く)