グラフェンは第3章でハンディキャップコストをメスも負担する場合のモデルを検討している.これはフィッシャーモデルがメスが識別コストを負担するかどうかで結論が異なってくることから検討しているのかと思ったが,モデルをよく見ると識別コストではなく,ハンディキャップコストそのものを負担する形になっている.というよりメスがオスの質から受ける利益が最初のモデルでは質そのものだったのに対し,このモデルではオスの質からハンディキャップを差し引いたものということになっている.
簡単にモデルの仕組みを図示すると以下のようになる
をオスの生存力として定義する.これはもともとのオスの質に広告コストを加味した後のオスの生存力を表しているもので,メスはこれを評価しようとする.つまりメスにとっては広告コストがかかった後のオスの生存力からしかメリットを受けられない,つまり広告コストを負担しているということになる.
としてオスの適応度を定義している.つまりいったん生存力を経由してのみ適応度が決まるとしている.よくわからないが,この定義によりモデルの構造が単純化して取り扱いがやさしくなるようだ.
ESS条件式は例によって次のようになる.
ここからグラフェンはESSの証明にはいるが,ここでは導出過程も見せてくれる.私の解釈を交えながら概略を説明すると
まずオスの戦略 については,ESS式から をまず解いて,そてがすべての について成り立つ方程式が になる,次にこの点が極小点でなく極大点であることを示せばよいとしている.
ここで例によって上図の個別パスに分けて
ここで と定義される関数(これはオスの質(生存力ではなく)を広告から正確に推定する関数になる)を定め,上式に代入すると
・・・(A)
これがすべての について成り立つ.
(ここで論文には誤植がある. となるべきところが,一カ所 と表記されているのだ.わかるまで結構悩んでしまう)
ここでメスのESSを考えると,常に となる戦略があれば当然上記ESS式は満たされる.すると
・・・(B)
これを(A)式に代入すると
故に
・・・(1)
ここで
最初のモデルと同様に はもっとも小さな広告に対し最も低い質を評価するので ・・・(2)
また(B)より
・・・(3)
最後に なので
・・・(4)
(1)から(4)によりESSはのペア戦略は
ただし
という形で示されることになる.
続いてグラフェンはこれが極小でなく極大であることを説明している.
ここは最初のモデルと同じく について と の大小で符号がどうなるかを考察することによって示せるという構成だ.
これは詳細が説明されていないのでなかなか難しいのだが,どうもこういうことのようだ.
まず が定義されているとおりであれば,当然 を満たしている.
また図に示したパスよりこのときには次が満たされている.
つまり
・・・(5)
また一般式としては,図に示したパスより
(5)をこれに代入すると
両辺を で割ると
ここで前提より なのでこの式の左辺の符号が の符号を一致する.
左辺は丁寧に書くと
この式は最初と同様の議論で,[tex: qQ(a)] のときに負となる.そして, の形の議論から, [tex: aA^*_{(q)}] のときに負となる.つまりこの解は極大点だということになるということのようだ.
なかなか難解だ.最初の(メスにコストがかからない)モデルの解の導入と微妙に手順が違っているのも興味深い.
そしてここまで読んでくると最初のモデルのESS式についていきなり提示されたように受け取っていたが,実は同じく からパス図に従って導出されたものであったことがわかる.うーんそうだったのか.
さてグラフェンはこのモデルでも実例を示している.そこは省略するが,解の性質として,最初のモデルと同じ性質が現れる.オスの広告はオスの質に対して単純増加を示し,正直な信号がESSとなる.
(この項続く)