読書中 「The Evolution of Animal Communication」第3章 その4

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)


第2節以降は利害が相関しないときの信号,主に性淘汰信号についての実例編だ.


第2節はカロチノイドによる赤や黄色の装飾について
まず「カロチノイドは動物には多く見られ,色の表現以外にもいろいろな生理機能がある.動物はこれを合成できず,植物やバクテリア,菌類から摂取する.自分で作れず,生理機能もあるということが配偶信号に使われることが多い理由だと考えられる.」と解説されている.
さらに実務的な難しさとして機能解釈の難しさについて注意が入っている.鳥については4原色による4次元の色彩感覚を持っているのでヒトの目で見た色彩より1次元深い知覚をしているのだ.主観的な判断だけでは不十分でスペクトルアナライザーが必要だというもの.なるほど.


ここから鳥とグッピー,トゲウオなどについていろいろな例が紹介されている.受信者が反応しているか,信頼性はあるか,コストはあるか,だましはあるかという順番で叙述されている.いずれもなかなか厳しいチェックがされていて学問の厳しさを感じることができる.これは余談だが,確かに図鑑などを見ると北米の鳥には原色の黄色や原色の赤の鳥が多く分布している印象を受ける.Scarlet Tanager アカフウキンチョウとか,Northern Cardinal ショウジョウコウカンチョウとか,American Goldfinch オウゴンヒワとかの鳥はユーラシアには見られず印象的だ.北米の研究者が(アメリカ滞在中のハミルトンとズックも含めて)この現象に注目するのは何となく頷ける.



写真は私が撮ったオウゴンヒワのもの.こんな真っ黄色の鳥は日本では観察できないし,初めて見たときには印象的だった



真っ赤な鳥の例はこちら.やはりこんなに真っ赤な鳥は日本では観察できない.初めて見るとその赤さに感動する.

http://images.google.co.jp/images?hl=ja&q=scarlet+tanager&btnG
http://images.google.co.jp/images?svnum=10&hl=ja&q=northern+cardinal&btnG





さて叙述の中で面白いのはカロチノイドは何を表しているのかという問題.栄養状態は相関があるようだが,微妙なのは寄生虫負荷.
数種の生物で,実験的に寄生生物を負荷されたオスの赤みが減ることが観測されている.(イトヨなど)
しかし話はそれほど単純ではないという.まずカロチノイドが寄生虫耐性に役立っている可能性がある.であれば感染個体は総カロチノイドのうち大きな割合を対寄生虫に投資するだろう.単によりカロチノイドにアクセスしやすかった個体はより寄生虫が少なく,赤みは多いだろう.
そして個体によりカロチノイドと関連のない寄生虫耐性の変異があれば問題はより複雑になるし,それとは別にカロチノイドが含まれる食品と寄生虫被爆に何らかの関連がある場合,複数の寄生虫種がある場合も話は複雑になるという.

そして実際のデータは様々で正相関,逆相関ともデータはあるという.結局ハミルトンとズックの仮説を巡る実証問題は今日的にも解決していないということらしい.

さらに子育て能力,良い遺伝子,感染リスクなども考察されている.なかなか決め手はないようだ.


コストについてはカロチノイド含有食料の採集・摂取にかかるエナジーコスト,カロチノイドに健康増進効力(抗酸化効果,免疫増進効果など)があるのなら,それを健康に回すか広告に回すかという形の機会コスト,広告のために摂取消化運搬合成をおこなう代謝コスト,被捕食リスクの増大などが考察されている.
これらは排他的ではなくそれぞれに十分な説明能力がありそうだということのようだ.


だましについてはイトヨの研究が紹介されている.オスの体色パターンは単独の時と群れの時では異なるという内容だ.


第3章 利害が相関しないときの信号


(2)カロチノイドによる装飾