読書中 「The Evolution of Animal Communication」第5章 その1

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)




今日から第5章だ.これまでの記述は発信者と受信者という2者関係だった.第5章では,第3者が登場したときにどうなるかを扱う.特に興味深いのは第3者が加わることにより信号のコストと利益が大きく変わってくる可能性だ.

同じような受信者が複数になる(多くのメスがオスのコールを聞く,両親が雛のねだりコールを聞く)場合には本質的な利益コスト構造はおそらくあまり変わらないだろう.

しかし異なる利害を持つ受信者がいる場合には信号は別の淘汰圧にさらされるとサーシィたちは指摘する.なわばり争いのコールは第3者のオスにもメスにも聞こえるだろう,そして発信者や想定された受信者の利害はこれらの傍受者の与える影響にさらされ,信号のコストや利益に影響を与えることになるだろうというのだ.利害が異なる関係者があれば,コストや利益は複雑に形成されることは容易に想像できる.なかなか面白そうだ.


第1節は総説.
まず他種の個体が信号を聞いて利用するという問題は古くから論じられていたという.要するにヤモリのような捕食者が獲物となるコオロギの鳴き声でエサの位置を見定めるときにそれは「信号」「コミュニケーション」といえるのかという問題設定だ.サーシィたちはその問題には答えず(要するに単に定義の問題だろう)これが信号のコストに影響することを取り上げる.

信号は捕食者の注意を引く可能性があるので,被捕食リスクという形でコストを形成するのはこれまでに鳥の雛のエサねだりコールや,カロチノイド着色でみてきたとおりだ.
サーシィたちは別の例も挙げている.
トゥンガラガエルのコールはメスを引きつける機能を持ち,チャックコールの回数が身体サイズと相関している.このチャックコールは代謝コストがかかっていない.これはコウモリによる被捕食リスクを高めているのだ.


次に想定された受信者でない同種個体のケースはどうか.サーシィたちはこれもコストに影響を与える可能性があると論じている.オスがメスを魅惑するコールが別の挑戦者としてのオスを呼び寄せるなら,これはコストとして効いてくるはずだ.
さらに面白い理論的可能性も示唆されている.
次に信号を傍受している同種個体はそのやりとりをおぼえていて後に自分とやりとりするときに利用するかもしれない.オスのニワトリのフードコールが正しいかどうかはそれを見ている別のメスもおぼえているかもしれない.これは「個体に向けた懐疑」の機能を増す方向に働くだろうというのだ.個体識別能力が必要になるので限られた動物種になってしまうだろうが,面白い可能性だ.


第2節では第3者の信号受信について2つの類型を設けて定義している.
サーシィたちはこれを eavesdropping と interception と呼んで区別している.(もともとはマクグレガーによる区別)ここでは「盗聴」(eavesdropping)と「傍受」(interception)という訳語を当てておこう.

「盗聴」(eavesdropping):信号のやりとりを観察して情報を得る場合
「傍受」(interception):信号による位置のみ特定するような場合

信号の情報内容にコストが関係してくるのか,単に信号の有無にのみかかるのかというところに違いがあるという整理のようだ.当然ながら興味深いのは盗聴の方だろう.


第5章 コミュニケーションネットワーク上の信頼性とだまし


(1)第3者の受信者


(2)「盗聴」(eavesdropping)と「傍受」(interception)