読書中 「The Evolution of Animal Communication」第5章 その2

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)


定義を決めたところで第3節は「盗聴」(eavesdropping)について.


まず理論編.攻撃的な競争の盗聴のESSをタカハトゲームの拡張版による解析を行ったリサーチがあるらしい.


ジョンストン(Johnstone 2001)

タカは常に攻撃.ハトは常に非攻撃.盗聴者は他人のゲームを見て,勝った相手には非攻撃,負けた相手には攻撃する.闘いの勝利の利益は負けるコストより小さい.(通常のタカハトゲームの解の存在の必要条件)
ジョンストンは3者が共存できることを見つけた.この場合盗聴は混合ESSの解の1つになる.


サーシィたちは盗聴戦略が負けるコストをタカより小さくできるの有利であることは自明だが,それが単独解にならないことは驚きだとし,ジョンストンによる「盗聴者が利益を得るには相手の行動を読めなくてはならないが,これは盗聴者同士が対戦すると行動が読めなくなるため」という解釈を紹介している.
しかし相手の弱点を搾取する方の戦略は相手がいなくなると有利でなくなるので混合解になるというのはかなり予想される結論ではないだろうか?自分だけが盗聴して(このモデルでどう設定されているかわからないが,通常コストがかかるだろう),盗聴しないことを相手の弱点と捉えると盗聴戦略が単独解にならないのは当たり前のような気がする.


さらにこのモデルでは盗聴者がいる方が全体の闘争比率が上がることが示されており,これも興味深い.
理由については盗聴者がいると闘争に勝つ利益が上がるためだと説明されている.というのはある闘争に勝つとそれが盗聴者に見られているので次の対戦で相手が逃げてくれるため,次に盗聴者と当たったときの利益が大きくなるのだ.これは説得的だ.


このような理論モデルは盗聴者がいると信号のコストが予想できないかたちで影響を受けることを示しているといっているが,予想できないかどうかは微妙だろう.


次は実証編

最初はオスの闘争の文脈.
鳥類や魚類で盗聴がある証拠が得られているということだ.調査は信号のやりとりを観察させて,行動が変化するかどうか観察することによって行われる.

ハゴロモガラスやニジマスの例が紹介される.オス同士の闘争を見せて,盗聴者の反応変化をしらべている.いずれも行動は変化しているが,サーシィたちの解釈では傍受である可能性を否定できないという.

さらにシャムトウギョで複雑な設定でこれをクリアした例が紹介されている.


次に信号そのものをコントロールしてインタラクションのみ操作する実験

ナンチンゲール,アメリカコガラで侵入オスのさえずりを再生して,インタラクションのみ変える.(なわばりオスが歌い終わる前にさえずり始めるかどうかのタイミング)観察者はより攻撃的なさえずり(歌い終わる前に始めるもの)に強く反応した.
シジュウカラでは敗者に対してより少なく反応し,勝者に対しては行動を変えない.

これはどのオスに反応した方がより適応的かという観点での生態的な差が現れたと解釈すべきなのだろう.



盗聴者は直接得られた(より正確な)情報と,盗聴により得られた情報をどのように統合させるのだろうか?

アーリーとデュガトキン

ソードテール(green swordtail)の研究.透明なしきりと不透明なしきりとマジックミラーで分かれた魚はそれぞれウィナー効果,盗聴,直接のインタラクションが全部あり,ウィナー効果のみ,ウィナー効果と盗聴のみとなっている.するとのちにウィナーといっしょにされた魚はウィナー効果と盗聴のみの場合には勝ちにくかった.

これは盗聴効果はあるのだが,直接インタラクションで否定されてしまうのだと解釈されている.しかしこれはかなり微妙な気がする.



続いて配偶選択における盗聴

シジュウカラアメリカコガラでオスの闘争を盗聴して配偶者選択に利用している証拠があると紹介されている.より強そうなオスのなわばりに有意に侵入するらしい.

ウズラではより攻撃的なオスより非攻撃的なオスに寄り添う.これは怪我を畏れていると解釈されている.しかしこれはとても微妙ではないだろうか.そもそも本当に非攻撃的なオスに従う方が適応的なら,オスは闘争しないのではないだろうか.



では発信者は盗聴されていると信号発信行動を変えるのだろうか.

ニワトリのオスははメスが近くにいるとよりフードコールを発する.
またシャムトウギョでは聴衆がいる,またそれがオスかメスかによって闘いのシグナルのダイナミックスが変わることが観察されている.メスが近くにいると激しい攻撃的な信号は減り,派手な信号が増える.また闘争相手の近くにいる時間が増える.オスが近くにいると闘いはより早くエスカレートし,闘争相手の近くにいる時間は減る.


これらは盗聴が信号のコストと利益に影響を与えているという仮説と整合的だろう.

本節全体を読んでみて,なお研究はこれからが本番だという印象だ.予備的にはとても面白い結果が出ているというべきだろう.



第5章 コミュニケーションネットワーク上の信頼性とだまし


(3)盗聴