読書中 「The Evolution of Animal Communication」第5章 その3

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

盗聴・傍受に関しての次の話題はその信頼性だ.第3者がいるとあるクラスの発信者と別のクラスの発信者に異なるコストを与える可能性がある.

まずこれまでに調べられた例としてトゲウオとコウウチョウが取り上げられる.

トゲウオ

カロチノイドの赤の信号を,群れにいるときは単独でいるときより少なくしか表示しない.これは近くにオスがいると,メスに対する信号ではあっても,オスに傍受されることによって(より闘いを挑まれるなどの)コストがかかるからだと考えられる.そして,育児能力と赤の表示面積の相関は群れの中にいるオスの方が高い.つまり,コストがかかることにより信号の信頼度は上昇しているのだ.


コウウチョウ

コウウチョウの優位シグナルだ.オスから離されたメスはオスのさえずりを聞くと交尾ねだりポーズをとる.群れの中にいるメスは優位オスとより交尾する.そしてそれはさえずりがキーになっている.またメスは単独で育ったオスのさえずりにより魅力を感じる.(そしてこれはさえずりの中のIPUという成分の過多によることがわかってる)
ではどのようにこのIPUは信頼性を保っているのだろうか.発生するのにコストはかかっていないように見える.これは群れの中の他のオスが賦課するコストによっているのだ(だから単独オスはよりIPUの多いさえずりを行うことができる)群れに入れられた単独オスは当初IPUの高いさえずりを行うが,周りのオスから攻撃されて殺されることもある.

なかなか面白いが,しかしこれらの例は単に群れの中ではコストが高くなるというだけのような気がする.サーシィたちは信号をコミュニケーションネットワークの中で考えなければならないことを示していると言っているが,例としてはちょっと微妙だ.


サーシィたちはまだよく調べられていないことを認めて理論的な可能性について議論している.

面白そうなのは,個別に向けられた懐疑のメカニズムを盗聴の文脈で考えることだ.
するとそのあと攻撃しないのにもかかわらずに攻撃的なディスプレーをした(はったりをした)個体をおぼえていて,自分が対戦したときには無視するようになるかもしれない.このような「第3者の懐疑」があれば,信号の信頼性について付加的なメカニズムになるだろう.


これは利他性の進化で良く議論される間接互恵性の議論と同じ構造だ.本書でもシグムンドとノヴァクの議論が紹介され,同じ結論になるだろうとしている.
そして野外研究への示唆としては示唆されているようにより小さなグループで発見されやすいだろうと予想している.


盗聴・傍受の結論としてはまだ研究例も少ないが,理論的な興味深い可能性がある.これはハンディキャップコストとして捉えるより別の枠組みで考えた方がよいだろうとしている.
将来的には面白そうな分野だが.間接互恵と同じだとすると理論的には結構論じ尽くされているような気もするし,野外では個体識別する動物群でしか調べられなのでなかなか実証研究を行うのは困難だろうという気がする.



第5章 コミュニケーションネットワーク上の信頼性とだまし


(4)第3受信者と信号の信頼性


(5)結論