読書中 「The Stuff of Thought」 第2章 その2

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature




普遍文法の形を見るためにまず何か1つの特徴を見ようとピンカーは提案している.

単語を文章にし,その意味を与える仕組みをシンタックス統語論)という.シンタックス自体いくつものメカニズムを持ち,特定の言語ごとにその強さが異なっている.単語を特定の順番にする仕組み,動詞などのアグリーメント,文章に痕跡を残し2カ所に現れる仕組み(疑問文におけるWhatなど)が含まれる.
シンタックスのキーポイントの1つは動詞の周りに文章が構築される仕組みだ.これをここではverb constructions 動詞構文と呼ぶことにしよう.

そしてピンカーの挙げる例は自動詞と他動詞の区別に関わるものだ.
私たちはこれを直接目的語をとるかどうかで区別する大きな区別だと教わる.しかしピンカーにいわせるとこれは氷山の一角だそうだ.

英語の動詞には斜格目的語(前置詞などに先行される目的語)を要するもの(The swallow darted into the cave.),目的語と斜格目的語を要するもの(They funneled rum into the jugs.)文章補語を要するもの(She realized that she would have to get rid of her wolverines.)などの区別がある.
文法学者ベス・レヴィンによるとこの手の分類で英語の動詞は85種類になるという.
つまり動詞は単に動作を表す単語ではないということだ.それは他の単語をどう組み合わせるかを含むフレームワークなのだ.

日本語においてはどうなっているのだろうか.最近の文法書をひもといてみるとかつて学校で習った文法とは異なり,動詞の最重要な分類は,自動詞,他動詞という区別ではなく,二項動詞,三項動詞という区別になっていて,それぞれ動詞によって,必要とされる格(これも目的格とかいわずに ガ格,ヲ格,ニ格などと呼ばれている)が異なっていると解説されている.そしてこれは厳密に言うと自動詞,他動詞の区別とは一致しないらしい.
例えば「会う」という動詞は目的語をとらないので自動詞と言うことになるが「私は会った」は必要な「ニ格」を欠いているので不完全な文章になる.そして文の完結に必要な要素を「項」と呼ぶようだ.

この必要とされる項の数,種類ごとに数え上げると何十かの数になってレヴィンのいう英語の85に対応するようだ.


さてピンカーの解説は続く,

動詞に含まれた意味は文章の核を組織化するだけでなくその意味を決める.

 Barbara caused an injury. バーバラは怪我をさせた
 Barbara sustained an injury. バーバラは怪我を被った.

この2つの文章でバーバラと怪我の関係はまったく異なっている.
単に主語の動作が目的語に向かっていることから推測しても意味はわからないのだ.

そしてピンカーはそれがよくわかる例としてジョークをあげている.
 Call me a taxi. OK, you are a taxi.



このフレームワークを決めているのは,一部は動詞の意味そのものだ.snore(いびきをかく)は誰の助けもいらないので自動詞にしか成り得ない.そしてkissは誰かとしかできないから他動詞になる.


しかしこれだけでは説明できないものがあるとピンカーはいう.最終的には動詞自体が固有のフレームを持っているとしか言えないものがあるという.そして意味からならあっても良いフレームがない動詞の例を挙げている.

 *Sam rumored that Flo would quit. (about, aroundしかとれないらしい)
 *The city destroyed.(自動詞にはなれない)
 *Boris arranged Maria to come.(不定詞はとれないらしい)


日本語ではあまり良い例はうかばないが.たとえば「調べる」は「を」と「について」ととれるが,「述べる」は「について」はとれるが「を」はとれないなどはどうだろうか.

「その事業計画(について/を)調べる」
「その事業計画(について/*を)述べる」



次節から子供がどうやってこれを習得していくのか見ることになる.


なお最後に「文法的でない」という意味についての注意書きがある.
通常言語学者による事実のデータを基にしている.客観的に正しいとか間違いという意味ではない.あるいは何らかの委員会で決められているものでもない.ネイティブスピーカーが避ける傾向にあるという意味だ.
また文法的でないとされたものもある環境下では話されている可能性がある.子供に話しかけるとき,これしか言いようがないときなどだ.「文法的にできない」とは通常の環境下で奇妙に聞こえるという意味なのだ.



第2章 ウサギの穴に


(1)パワーズオブテン


関連書籍


私は決して言語について詳しいわけではない.今回参考にしている日本語の動詞についての文法書は以下の通り.

日英比較 動詞の文法―発想の違いから見た日本語と英語の構造

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これは英語学習用のもの.英語と日本語の違いから日本語話者が間違えやすい英語の動詞構文を解説してくれている.



生成日本語学入門

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こちらは生成文法を日本語に応用したものだ.生成文法の本は英語で解説してあることが多いので,日本語中心だとなかなか新鮮で面白い.