読書中 「The Stuff of Thought」 第2章 その8

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature


第5節でピンカーが取り上げるのは間接目的語を表す与格の問題だ.

 Give a muffin to a moose.
 Give a moose a muffin.

前者は前置詞与格と呼ばれる.後者は二重目的与格あるいはditransitive与格と呼ばれる.
伝統的な文法では後者にある2つの目的語は間接目的語,直接目的語と呼ぶ.現代では通常,第一目的語,第二目的語と呼ぶことが多いそうだ.日本では普通,間接目的語,直接目的語と学校で教わる.学校ではこれは同じ意味で入れ替え可能と教わったような記憶があるが,これまでのピンカーの解説から言うときっと視点の差があると言うことなのだろう.


さてピンカーの課題は動詞によってこの2つの文型をとれたりとれなかったりすると言うことだ.
give のほかに slide, bring, tell は両方とれる.



子供は「前置詞与格がとれれば,二重目的与格もとれ,逆も真だ」と考えそうだ.そして実際に子供はそうする.子供は聞いたはずのない例文を作る.
 fix me my my tiger.
 button me the rest.
 open Hadwen the door.
(これらは大人は普通使わない文だと言うことだろう,きっととても子供っぽい可愛い表現なのだろう.非ネイティブには難しいところだ)


大人もそうすることがある.
 fax me the menu.
 e-mail him the direction.



そしてピンカーは,しかしこれには例外があるという.
<まず前置詞与格しかとれない動詞>
 Goldie drove her minibus to the lake.
 *Goldie drove the lake her minibus.


 Arnie lifted the box to him.
 *Arnie lifted him the box.



<二重目的与格しかとれない動詞>
 The IRS fined me 1000$.
 *The IRS fined 1000$ to me.


 Friends, Romans, countrymen: Lend me your ears!
 *Friends, Romans, countrymen: Lend your ears to me!




そしてピンカーの真の質問

この異なるグループの動詞群の意味の中には似ているものがある.
slide も lift も何かを誰かのところに運ぶという意味だ.tell と mutter も誰かに何かを言うという意味だ.
なぜ子供はこれを区別して覚えることができるのだろう.

日本語では,このように何かを誰かのところ(あるいはどこかの場所)に移動させる場合に,格使用に関して2つの文型をとれるような動詞があるという現象は思いつく限りでは無いようだ.あればお教えいただけるとありがたい.


英語における前置詞がないゼロ格の直接目的語,間接目的語と異なり,日本語の目的語はすべて後置詞を伴う「ヲ格」「ニ格」などの形をとるのであり,それは受け手(あるいは場所)なのか,移動するものなのかを示さざるを得ず,ある格でどちらの目的語もとれる動詞が存在するというような現象が生じないのだろう.



第2章 ウサギの穴に


(5)having, knowing, helping についての思考