読書中 「The Stuff of Thought」 第2章 その16

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature


第9節でピンカーは総説を行っている.

動詞を細かく見ていくと,視点の転換,メタファー,基礎的な概念を持つ私たちの能力が理解できるというのが本章の言いたいことだということのようだ.そしてこれらは知性一般にとって普遍的だろうかと問いかけている.そして進化に造詣の深いピンカーなら当然のごとく,これらはとてもエキセントリックだろうといっている.例としてアリスに出てくるモックタートルやハートのクィーンを出すところがとてもお茶目だ.


そしてこれらがエキセントリックであることを具体的に示していく.


have と benefit
私たちの言語では何かを持つことはよいことだというメタファーを使っている.日本語では二重与格構文と前置詞構文の交替のような現象がないのでここでのピンカーの分析にはっきり当てはまってはいないが,「あげる」「もらう」という表現が受益の意味に使われることから見て同じようなメタファーは存在するといって良いだろう.

もちろんほとんどの人はお金があることがより幸せだと考えている.しかし幸福を良くリサーチすると一定程度を越えた富は幸せにほとんど無関係であることが知られている.


have と know
やはり言語では知ることは何かを所有することであり,コミュニケートすることは何かを送ることだというメタファーを使う.これも日本語で情報を「もらう」という言い方をすることから同じといってよいだろう.

もちろんこれには真実が含まれている.しかしコミュニケーションには理解が伴うし,情報はそこにとどまって不変であるわけでもない.学習はただ記憶しているだけでうまくいくわけではない.


have と move
言語はしばしば所有を何かがそこにあることと表現する.贈ったり受け取ったりすることでものが動くと表現する.これも日本語でも同じだ.

動産やあるいは金銭や不動産まではこれである程度理解できる.しかし知的財産では混乱してしまう.ファイルシェアやダウンローディングをどう考えるのか.人はオリジナルを損なわずに歌やソフトウェアを手に入れられる.アイデアから遺伝子までどのように所有を法制化するかが現代の問題になっているのだ.


時間
言語における時間は時計が連続した時を刻むようになっていない.それは瞬間の出来事(投げる)や継続した出来事(引く)や出来事の蓄積(壊れる)を粗くパッケージしたものとして取り扱っている.ピンカーは第3世界やマサチューセッツの自動車登録事務所の時間の流れ方は近代的な概念ではなく言語のそれなのかもしれないと皮肉っている.ボストンでの自動車登録は結構大変らしい.


ものと場所
あるものを別のものとの相対的な場所で示すときに,心は前者の場所を点状かはっきりしないものに縮める.(thing in a box 箱の中のもの)私たちはこのような全体主義的なメンタリティを抽象的な場所にまで適用する.(a filled wagon, a garden swarming with bees 満たされた杯)
これが人が統計的な比較の理解を苦手にしている原因だろう.平均的に女性が言語能力に優れるという時の「平均」の理解ができなくなるのだ.これはハーバードの総長ラリーサマーズの舌禍事件のことをいっているのだろう.何か1つの塊が別のものと明らかに違う場所にいるイメージにとらわれてしまうのだ.


因果
原因と因果のクリアーなイメージは,誰かが意図を持って何かの結果を引き起こすことだ.これは刑法の責任の概念に近い.しかし現実世界はこのようなビリヤード的なものでない因果関係に満ちている.
レオ・カッツの本 夫を殺そうとして毒入りリンゴを作るが,夫はそれを捨ててしまう,知らずに食べたホームレスが死んだ場合に彼女は殺人を犯したのか?悲嘆に暮れている人の家に行き,首くくりできるように手配してあげるのは?
1881年ガーフィールド大統領は暗殺者に2発撃たれた.死ぬような傷ではなかったが医者の手当てが悪いために結局無くなった.暗殺者は殺人罪で死刑になった.この男の運命も動詞の文法に左右されたと言えるだろう.

時間,ものと場所,因果については後の章で詳しく見ていくようだ.



第2章 ウサギの穴に


(9)私たちの認識の妙なくせ