読書中 「The Stuff of Thought」 第4章 その13

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature

因果の哲学的な議論のあと,ヒトの因果に対する認知の話になる.


ピンカーによると,人の行動を見れば,人が,「因果というのは,単なる相関ではなく,何か隠れた力がある」と考えているということがわかるということだ.

多くの心理実験は,人が(例えば悪い天候が関節炎を悪化させるなどの)お気に入りの因果関係理論を持つと,どんなにそうでないというデータを見せても,それは現実に観察できると断言することを示している.因果力を見せる幻覚の習慣は人の文化に色濃く表れており,多くのまじないや魔術師が存在した.科学者でさえ相関関係を見つけ出そうとする努力を止めず,因果力のブラックボックスをこじ開けようと試みる.時には,フロジストンやエーテルのように結果はでないのだが,時には結果が出る.遺伝子や原子や地殻プレートはそうだ.

またピンカーは,人々は特別な出来事についての鋭い直感を持血,単一の事象から因果を推測するといっている.
だからベイスネットワークのように考えられない.それは非常に多くの出来事の平均でしか現れず,特別な出来事の原因については何も示さない.
アーブ叔父が毎日2箱吸って97歳まで生きたとしよう.人は喫煙はアーブ叔父を殺さなかったと結論づけるだろう.しかし喫煙がガンを生じさせるかどうかについては何の結論も出せない.


そしてこのような知見を証拠づける実験をいろいろと紹介している.そしてこのような認知はリーサスモンキーでも観察できるそうだ.(赤ちゃんの認知実験と同じで,リーサスモンキーも驚くと見つめる時間が長くなることを利用したエレガントな実験が紹介されている.リーサスモンキーはそれまでにナイフを見たことがなくとも,リンゴがスクリーンの後ろに隠れ,ナイフを持った手がみえ,そして後にリンゴが2つに割れて現れても驚かない.しかしナイフの変わりにグラスだとびっくりして見つめるのだそうだ)



そして言語に中には因果はどう現れているだろうか.
ここから言語学者レン・タルミーの説が紹介される.


タルミーは言語における因果性の概念について謎を解いた.第2章で見たように多くの動詞は因果の概念を伝える.


いくつかの動詞は純粋の因果性を伝える.
begin, bring about, cause, force, get, make, produce, set, start

別の動詞はさらに状態変化を加える
melt, move, paint, roll


因果をじゃまする動詞
avoid, block, check, hinder, hold, impede, keep, prevent, save, stop, thwart

可能にする動詞
aid, allow, assist, enable, help, leave, let, permit, support

そして因果を表す接続詞
although, but, despite, even, in spite of, regardless


タルミーはこれらの言葉が,「力の動学」(force dynamics  ビリヤードのようなアニメーションで心に浮かぶ本質的な傾向や反発力の認知)という心のモデルにしたがっていることを示した.
このモデルは「主人公」(agonist)と「敵対者」(antagonist)間で生じる動きに関するものだ.
基本シナリオでは敵対者は主人公に通常本来の傾向と異なる力を加える.主人公は動きなどの傾向を変える.敵対者が小さな力しかないときには主人公はもとの傾向を持ち続ける.
この組み合わせにより,因果,許可,援助,妨害などのシナリオが作られる.



ここからはいろいろな因果にかかる言語現象が次々と紹介される.興味深いのだが,脈絡がつかみにくい部分だ.基本はこのような言語現象は上述の「力の動学」モデルに心がしたがっているために生じていると言うことを言いたいようだ.

  1. 達成動詞が行動と状態変化両方に言及するので因果を表す便利な表現である.
  2. まず原因を提示して結果を述べる言い方と,逆の言い方がある.
  3. 日常語ではいちいち因果を明示せずに,単に「ボールがランプに当たった」と言うことが多い.これは「出来事」だけが別の「出来事」と引き起こせるのであって,「もの」が引き起こすのではないからできる.
  4. 日常言語は,自然に何かを起こすことのできるもの(風,波,意図を持った人)を主語として,因果の最終結果を述語にすることでこれをうまく言い表すことができる.
  5. 因果にかかる言語はさらにコンパクトにできる.敵対者が主人公に直接働きかけるなら,行為と結果は1つの動詞で表すことができる.「カルがランプを壊した Cal broke the lamp」このようにコンパクトにするには因果は直接的でなければならない.(同じ粒子サイズの別の事件が介在していてはならない)シビルが窓を開けて風が吹き込み,ランプが倒れた場合には「Sybil broke the lamp. 」とは言わない.
  6. 多くの動詞では主人公は結果を意図していなくてはならない.女の子がうっかり天井のライトに風船を当ててしまったときには,She popped the balloon. とは言わない.


第4章 大気を切り裂く


(4)魅力:因果についての思考