ダーウィン展探訪

過日,上野の国立科学博物館でひらかれているダーウィン展 http://darwin2008.jp/ に行ってみた.ちょうど新緑の季節で上野の森は明るい緑色にあふれ,流れる風も心地よくさわやかだ.このダーウィン展はもともとニューヨークのアメリカ自然史博物館によって企画されたもので,その後世界を回っているのだそうだ.ダーウィンにかなり入れ込んでいる私としては見てくるほかはない.


最初の展示はダーウィン以前と以後の動物の分類の差異について示すという趣旨で,2つの系統分類がいろいろな動物の剥製や骨格標本とともに示されている.ビジュアルに工夫が見られるところだが,ダーウィン以前にも相同関係は知られていたし,最近のDNA分析による系統樹ダーウィンは相当時代的には差があるところだ.まあ「進化」という概念についてまず示したかったという趣旨だろう.


そこからはダーウィンの生涯をたどっていくダーウィン展の主要展示になる.ガラパゴスゾウガメや南米大陸のイグアナやカエルの本物を置いたり,いろいろな剥製を並べたりしていて工夫が窺える.剥製ではレアとダーウィンレアを並べて展示してあるのが印象的だった.

私としてもっとも感銘を受けたのはダーウィンの自筆のノート,原稿などがふんだんに展示されていたことだ.中にはフォトコピーも混じっているようだが,いわゆるダーウィンの進化のノートの実物を見ると何とも言えない畏敬の気持ちに打たれる.グールドが博物館で本物を展示することの意義を説いていたエッセイを読んだことを思い出した.ノートは思ったよりずっと小さい.ダーウィンの自筆は殴り書いたような筆記体中心で,なかなか判別はできないが,添えてある日本語訳を参考に読んでみるのも楽しい.
有名な「行け行けチャーリー」の甲虫の上に乗った若き日のダーウィンのマンガ,ビーグル号への航海にかかるヘンズローからの招待状,父に当てた許しを請う手紙,父からジョサイア・ウェッジウッドに当てた航海を許可する手紙,航海中に英国に向けて出した手紙,ビーグル号での日誌,進化にかかる様々なノート,特に最初に現れた系統樹など印象的な草稿が贅沢に展示されている.

有名な「結婚するべきかせざるべきか」というメモまで展示されていて大変興味深かった.見た感じでは乱暴にメモされていて,頭の整理のためにそのあたりの紙に書き付けてみたという印象.むしろこんなメモを後生大事にとって置いたことの方が驚きかもしれない.エマとの手紙のやりとりも展示されていて(エマの手紙は同じ手紙の最後に「これを読んで,幾度涙し,キスしたことか.僕の死後にわかるだろう.C.D.」という有名な書き込みのあるものだが,当該最終ページは展示されておらずちょっと残念),またダウンハウスのダーウィンの居室も再現されていてダーウィンの人となりも窺える仕掛けになっている.

進化を巡る考えに関しては前述のノートのほか,育種家向けに作ったアンケート用紙,発表できなかったときに備えて書いた進化を巡る論考の草稿,自分の長男の行動の観察日記,そしてウォレスからベイツへ,ダーウィンからライエルへとウォレスの知らせが届いたときの緊迫した状況も巡るやりとり,ウォレスからのダーウィンの考えと同時発表という措置に満足する旨を記した手紙という歴史的な興味が持たれるもの,「種の起源」の原稿(これは現在わずか28枚しか残っていないそうだ)などが展示されている.いずれも大変興味深いものだ.


ダーウィンの生涯の展示のあとは,現代の進化科学について説明しているコーナー,日本における進化学説の受容を展示するコーナーがあり,最後にシーラカンス標本やダーウィンの生涯を示す8分程度の映画が上演されてダーウィン展は終了である.グッズ売り場でパンフレットを買い求めて会場をあとにした.やむを得ないのかもしれないが写真撮影は禁止でちょっと残念だったが,豊富な原稿類の資料展示は圧倒的に素晴らしく,大変充実した展覧会であった.


なお国立科学博物館は常設展示も非常に素晴らしい.http://www.kahaku.go.jp/ 
私はその後地球館,日本館と堪能してきた.やはりこういう博物館には時々ちゃんとテーマごとの予習をしていってゆっくり見たいものだ.


なおダーウィンの自筆草稿などはこのサイトで閲覧できるようだ.http://darwin-online.org.uk/



関連書籍


ダーウィン展をより楽しむならダーウィンの生涯は予習していった方がよい.何冊かあげておこう.



手頃なのはこの2冊.長谷川眞理子先生のは旅行記でもある. 


私の書評は
http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20071011
http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20060815



名著誕生2 ダーウィンの『種の起源』

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ダーウィンの足跡を訪ねて (集英社新書)

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予習にはちょっと大部だが,でも伝記ならこれ


ダーウィン―世界を変えたナチュラリストの生涯

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