読書中 「The Stuff of Thought」 第9章 その1

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature


長々と読んできた本書もいよいよ最終章だ.まとめと言える章だが,これまでの章と違ってちょっと読みにくい.


ピンカーはヒトの本性を見るにはいろいろな方法があるが,本書では言語から見てみたのだという.そして他の方法と同じように,いくつかの新しい発見があり,引き続いてわからない謎も残っているとしている.そして火星から来た言語学者が言語を見てヒトの本性をどう記述するかという視点でこれまでのまとめを始めている.それはかなり長いリストからなる.読みながら,これまでの長い議論を思い起こすことができる.


ピンカーのあげる長いまとめは解説付きだが,その主題だけ並べると次のような感じになる.

  • ヒトは,世界が示しているアナログの情報とは随分異なる世界の状況についての理解を構築する.ヒトは経験をものと事件にパッケージする.ヒトはそれらのものや事件を集めて,実際の可能な世界の特徴についての命題にまとめ上げる.
  • ヒトの事実についての特徴化は,既にある理解可能な思考の在庫から作られる.在庫はまず基礎的なユニットからなる.事件,状態,もの,材質,場所,目的だ.それはこれらの要素が何ができるのかを区別する.
  • ある動作は心に目的を持って始められる.目的は動作の目的(干し草を積む(水を満たす)場合)だったり変化した後の状態(*ワゴンを積む(グラスを満たす)場合)だったりする.
  • 目的物はそれがヒトか,生きているものか,そうでないものか,あるいは1つのものか集合物か,そしてどのように3次元空間にあるかで区別される.事件は時間の中でどうあるのか,どのような順序で生じるのかで区別される.
  • ヒトはユニークなものを認識し,それをカテゴリー化し分類整理する.ヒトは心理的なズームレンズを持ち,あるものの材質(それはプラチックでできている)に注意したり,その境界と形(それはカップだ)に注意したりできる.材質は均質なもの(アップルソース)だったり,集合物(小石:pebbles)として認識される.
  • ヒトは数について原始的な感覚を持つ.それは1.2.たくさんという感じで,それ以上についてはおおまかな量として把握される.そしてそれを物体の場所に対する理解(ここに,この近くに,遠くに),物事の時間に対する感覚(現在,ちょっと前,大昔)などにも使う.
  • ヒトがあるものがどこにあるのか,それは何なのか,それはどのように変わったり動くのかを考えるときには,それを全体として捉え,内部構造のない点として考える.そのものが人間であるときには,別の実体が入り込む.人間は身体部分から成り,そしてかつ身体部分を持つ.人間が所有するものは身体部分や所持品だけでなく,アイデアや幸運も含まれる.
  • ヒトが心の中で世界をイメージするときには,ものや事件を連続した空間の中に配置する.またヒトは調整したフレームをものに当てはめ,フレームとの相対関係で物事を捉える.
  • ヒトの心はものを概略図的モデルに構成する.一般的な材質で0,1,2,3次元的な広がりを持ったモデルだ.
  • ヒトは時間を空間の1次元と同じように取り扱う.そして事件をその中に存在するものだと考える.ヒトは,時間を,現在(意識のある3秒間ぐらい)無限に至る過去(時に最近と大昔に分けられる),無限に至る未来(これも時に近い将来と遙かな未来に分けられる)に3分する.心の中では,過去は事実と,過去でないものは仮想的なものと,未来は意図と結びつく.そして心のストップウォッチはヒトの目的にあわせて調整されている.
  • ヒトはいくつかの物事は単に生じたもので,そうではない物事は原因があると考える.それは相関関係や,原因がなかったら結果もなかったかということにより推測されるのではなく,動きのある強い実体が静止気味の弱い実体に与えている「勢い」を感じることによって判断されるのだ.因果の連鎖の最初の鎖は,通常ヒトであるエージェントによる動作として構成される.エージェントが,自由意思により,ある結果を意図的に直接的に引き起こしたのであれば,そのエージェントは賞賛・非難される.
  • 単語という心理的人工物はある社会の人にとってきわめて強力なものだが,それは1人の人の心から始まったものだ.それらのあるものは,ある時代のある社会に普遍的で,文化と呼ばれるものを構成し,言語の一現象となっている.
  • ヒトはアイデアを単に楽しむだけでなく,感情的に巻き込まれる.ヒトは,神,その部分,所有物,それらがコントロールする超自然王国に恐れを抱く.ヒトは災害,死,病気を恐れる.ヒトは身体からの浸出液に不快感を示す.
  • ヒトは対人関係に敏感だ.ヒトは,交渉やコンフリクトで自分の意見が通りやすくなるために「体面」を保とうとする.ヒトは社会的地位に敏感で,結束や共感にも敏感だ.他人とは優越的地位をかけて争い,地位を見せびらかし,権力や影響力を振り回す.
  • ヒトは対人関係に道徳的な色をつける.ヒトは不注意である関係タイプの論理に違反するときまりが悪いと感じ,意図的に破る人には憤りを感じる.ヒトの対人関係は,それを相手が知っていることを自分が知っていることを相手が・・・というタイプの相互知識で批准されている.


遙かに長い議論につきあってきたという感慨を禁じ得ない.しかしもう一度よくリストを眺めると,ヒトの認知がいかに特殊なものであるか改めて気づかされることになる.個別の章を読んでいるときには言語や心理の細かい話に魅了されているが,やはり本書はヒトの本性に関するものだと言うことがよくわかる.



第9章 洞窟を逃れる