「Kluge」第4章 選択 その1

Kluge: The Haphazard Construction of the Human Mind

Kluge: The Haphazard Construction of the Human Mind


さてマーカスが取り上げる次の話題は「選択」だ.
そしてここでは2つの選択肢から1つを選ぶ際の「非合理性」が全般が取り上げられる.最初に取り上げられるのは有名な時間に関する「双曲割引」の話だ.

マーカスは子どもが待てないことを例に挙げる.

子供にマシュマロを与え,帰ってくるまで我慢できたらもう1個上げるよといって部屋を出る.多くの子供は例えば15分我慢してついに手を出してしまう.しかしこれは,20分で餓死してしまうほど飢えているか,20分後の未来が考えられないほど短命でなければ非合理的だ.

しかしこれはあまりよい例ではないように思う.例えば待つ時間の長さによって単位時間あたりの苦痛の量が変わるとし,待っている間に帰ってくるまで待つ期待時間が延びている(5分ぐらいで戻ってくる可能性は高いが,それをすぎればちょっとした用事ではなく本格的にどこかに行った可能性が高く,1時間ぐらいという可能性が高くなるなど)とすれば,どこかであきらめるのはむしろ合理的な行動になるだろう.そして子どもの場合実際にそういうことになっている可能性があるだろう.


マーカスは,このほかの例として,様々な双曲割引的な例や薬物中毒的な例を挙げている.そしてヒトは合理的な選択をすることもある(!)という話も行う.

例えば,的をねらうゲームで,プラス点やマイナス点がある場合にどこをねらうかという設定では,期待得点が高いところをねらう.マーカスはこれらは進化的な環境でであった「何かをとるときにどうすべきか」という問題と同じだからだと理由をいっている.


そして進化的な新しい経済的な環境では合理的な選択が難しいとしていろいろな例を挙げている.

  • 89%で5百万ドル,10%で1百万ドル,1%でゼロという選択肢と,100% 1百万ドルという選択肢なら後者を選ぶ.しかし11%で1百万ドルという選択肢と 10%で5百万ドルという選択肢なら後者を選ぶ
  • パリ行き旅行券の500ドル券と授業料の500ドル券のどちらを選ぶか.確率1%ならパリを,99%なら授業料を選ぶ
  • ある買い物で同じ25ドル節約するために街を半分ドライブするかという質問で50ドルが25ドルになるならするが,1000ドルが975ドルになるならしないと答える.


1番目と3番目はおなじみで,1番目は1%でゼロというはずれを実質的に損失と認識し,大きなコストをかけても避けようとするもので,損失回避のバイアスが現れたものだ.ちょっと面白いのは99%で百万ドル以上もらえるとなるとゼロが損失と認識されるというところだろう.3番目は量的な把握が指数的になってしまうという問題だ.2番目はあまり聞いたことがないもので面白い.「どうせ当たらないのだから夢を見よう」ということなのだろうが,確かに合理的ではない.



マーカスはこの理由を次のようにいっている.

ヒトは数や金銭を扱うために進化していない.
動物は数を大まかな量として把握する.それは非線形であり1と2の違いは101と102の違いと異なるのだ.
ヒトの心は金銭ではなく,食べ物を扱うように進化している.だから面白いことに金銭のことを考えさせる質問(宝くじに当たったら何に使うか)をするとヒトは良く食べるようになるのだ.


ここまでのマーカスの説明はまさにコスミデス的な正統的な進化心理学の説明と同じだ.




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私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20071123