「Natural Security」 第1章 自然セキュリティの起源

Natural Security: A Darwinian Approach to a Dangerous World

今回からこの本を読んでみることにした．
本書は進化的な思考方法をセキュリティに応用しようという試みを本にしたもので，様々な学者の寄稿したものを一冊にまとめている．背景に9/11以降の対テロリズムに関するセキュリティについての意識の高まりがあるのは当然だ．

冒頭の第1章は編者の１人であるサガリン（Raphael D. Sagarin）による「自然セキュリティの起源」The Origins of Natural Security

生物は35億年間，捕食（寄生），災害，資源欠乏，争いに適応してきた．数々の対補食適応や免疫はこの例であり，これを対テロのセキュリティに応用してはどうかという考えを提示している．

ここで著者の略歴と何故このような分野に興味を持ったのかの経緯が語られていてなかなか面白い．
著者自身はもともと海洋生態学のリサーチャーだが，9/11直後のワシントンでアルバイトしていたことがあるのだそうだ．しかし（まさにペンタゴンが襲われ，ホワイトハウスも狙われていたワシントンその場所での）そこで見たセキュリティチェックは常に同じ手順で行われていたそうだ．これは生態学で見られるものとは随分異なっていて，予測できないリスクに対応できないのではないかという印象を持ち，そこで生物学的に考えて冗長性，多様性を持って予測不可能性に対応する方がよいのではと考えついたそうだ．

そして簡単な論文を書いた後，さまざまな生物学者やセキュリティ政策担当者，学者とコンタクトをとるようになった．彼等は考え込んだあと何かしらヒントをくれたそうだ．そしてそのような人たちののネットワークが形成されて本書につながったのだという．

というわけで本書はいろいろな分野の執筆者が執筆している．古生物学，生態学，疫学，行動生態学，進化心理学，免疫学，保全生態学，数理生物学などのフィールドだ．そしてこれは現代の社会のセキュリティに生物学を応用する最初の試みであるそうだ．

ここでサガリンは，文系と理系に橋渡しをしたいという希望を提示し，また生物学を社会に応用することへの懐疑がまだあることにも触れている．
まず社会ダーウィニズムのような考え方への批判については本書は当たらないと断っている．
倫理的な懐疑については，例えば免疫をセキュリティに応用するようなことは全体主義的な政府の力につながるという恐怖を呼び覚ますのだそうだ．しかしそれは考えすぎだと指摘している．かなり無理筋のこじつけのようにも思えるところだが，なかなか生物学への懐疑は強いらしい．

もう少し実際的な懐疑としては，ヒトの社会に自然や進化の考えがうまく応用できるのかというものもあるようだ．自然は悠久の時により膨大な試行錯誤の上に効果的な戦略を作り出しているが，我々にはそんな余裕はないという懸念だ．サガリンは，しかしよく考えることで，これまで自然が試してきた戦略を有効に使うことができるだろうといっている．

サガリンは予告として分析の視点を4つ挙げて本章を終えている．

1. 組織原理　高度な中央集権はセキュリティ的には弱い
2. 行動　進化で作られた一見合理的でない行動パターンに根拠を発見できることがある．
3. 環境の認識　リスクに応じてリソースを配分する柔軟な戦略
4. タイミング　すべての自然システムは時とともに変わっていく．

関連書籍

この第1章の参考書籍としては以下のような本が挙げられている．

Biomimicry: Innovation Inspired By Nature

Why We Get Sick: The New Science of Darwinian Medicine

Open Space Technology: A User's Guide

Darwin and International Relations: On the Evolutionary Origins of War and Ethnic Conflict

Evolution and Escalation: An Ecological History of Life

Nature: An Economic History