「Natural Security」 第7章 戦闘員と殉教者 その3

Natural Security: A Darwinian Approach to a Dangerous World

Natural Security: A Darwinian Approach to a Dangerous World



ソシスとアルコルタによる宗教の進化的な理解.4つの特徴のうち最初の2つ「コスト高の儀式」「超自然的なエージェントと反直感的な概念への信念」まで来たところだ.


<3.聖と俗の区別>
なぜ宗教は聖と俗を区別するのか.ソシスとアルコルタは,それは機能的なメリットがあるからだと説明する.儀式により「聖」を作ることにより人々の感情を引き起こし,より選択と行動を強く動機づけることができるという説明だ.
このために淘汰によりこのような宗教が残ってきているということだろうか.ということであればミーム的な説明になる.進化的にはではなぜ,ヒトの心理はそのように動機づけられるようになっているのかが気になるところだ.
テロに関して,ソシスとアルコルタは,テロリストはその力を利用することがあることが重要だといっている.特に「神聖な場所」を作られるとやっかいだということだ.


<4.宗教的な信念と価値への移行は若い時期に生じる>
通文化的に成人儀式はよく見られる.これらは経験を共有することにより団結に役立つのだと理解される.
また洗脳は若い時期になされることが多い.これはヒトの心理の発達段階での学習の窓であり,社会的,感情的シンボル的な刺激に弱いことが利用されていると解釈している.


ソシスとアルコルタは,「宗教的なテロリズムは協力を作る宗教の適応的な特徴を利用しようとしている」とまとめ,世俗的なテロリズムも共通の要素があることがわかるとコメントしている.感情をかき立てるシンボル,儀式,神話などだ.いくつか具体例も挙げられていて興味深い.


続いて将来のリサーチエリアがあげられている

  1. カリスマ的リーダー
  2. 死後の地位上昇の約束
  3. 若者と儀式
  4. 繁殖利益との関係
  5. 宗教の柔軟性,何が宗教の変化を引き起こすのか


最後に政策へのインプリケーションがコメントされている.

  1. 善悪の2分法はテロリストにリクルートのチャンスを与える.紛争をコズミックに捉えるのはテロリストに利益を与えることだと肝に銘じるべきだ.
  2. 暴力を減らすには宗教活動の自由をより認めるべきだと思われる.マイルドな宗教は狂信的な宗教と信者を争っている.狂信的な宗教を抑えるためにはマイルドな宗教が競争上有利にするべきだ.それには言論による宗教活動をより認めるのがよいと思われる.
  3. 宗教の団結性を示すコストのあるシグナルに着目すべきだ.このシグナルをより高コストにする方向に政策を考えるのがよい方策だと思われる.
  4. 宗教的な感情の根は深い.いったん紛争が生じたら,交渉の席には宗教関係者を必ず加えるべきだ.そうしないと合意は簡単にくつがえされる.
  5. 宗教のシグナルは,コストのかかっているバッジだ.これはテロリストをサーチするキーとして使えるだろう.
  6. 若い人々をテロリストのリクルートから守ることは重要だ.青年期に何か別の活動を行うことを奨励するべきだ.子供をテロリストの宗教学校に行かせないために,伝統的な宗教教育の機会を与えるべきだ.
  7. 途上国で経済的な機会の平等を推し進める政策は,そもそもテロリストの団結の価値を減ずることになり効果が期待できる.

ハンディキャップシグナルのコスト性に着目して何かできないかというのはちょっと面白い視点だ.また狂信的な宗教を抑えるために(ミームプールを争っている)伝統的な宗教にてこ入れしようという主張も興味深い.