「ダーウィンの『種の起源』を読む」

ダーウィン『種の起源』を読む

ダーウィン『種の起源』を読む


出版150周年をねらって出された『種の起源』を読むためのガイド本だ.著者はサイエンスライターで進化や系統についていろいろな本も出している.(http://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili/keitou/origin-of-species-top.htmlという本書と平行するような企画のページも公開されているようだ)本書は『種の起源』の全体の構成,論旨の要約に加え,ところどころ著者による関連の書き込みがあるという体裁で,読書ノートの風情もある.読者としてはあまり進化生物学に詳しくない一般の人を想定しているようだ.


なかなかよくできたガイド本で,きちんと原文にも当たっているし,相当深く調べて書いていることがわかる.ダーウィンは『種の起源』で様々な生物の様々な様相を例として持ち出して議論している.本書ではその文章だけでわかりにくいところをイラストで補う工夫もあるし,著者自身でスミレなどの分かりやすい例を示している部分もあり丁寧な作りだ.(イラストとしては,日本人にはあまりなじみのないハトの各品種の図,セイヨウサクラソウとキバナクリンソウの図,ベニバナツメクサアカツメクサの図,各種のハチの巣の図,ウィールド地方の白亜紀の地層の図などが『種の起源』の理解には大変役に立つだろう)


著者による背景の解説,関連の書き込みについては適切なもの,ちょっと物足りないもの,やや理解の浅さが感じられるもの,あまり関連性がないようなものなど様々だが,丁寧に勉強しているようで全体的に大きな破綻はない.集団遺伝学,行動生態学周りについてはやや解説がピンぼけ気味だが,栽培種の品種などの部分については教えられることも多い.逆に感じるのはダーウィンその人のスケールの大きさだ.『種の起源』においては,集団遺伝学,生態学,農学,系統学,生物地理学,行動生態学,解剖学,地質学,古生物学など多岐にわたって非常に鋭い問題提起がなされており,恐らく1人で『種の起源』のすべてのトピックに現代的な解説をきちんとつけることは非常に困難だと思われる.また本書では原文にまで当たって読み込んでいるので,わかりにくい表現についての解釈があって大変参考になった部分もある.(逆に例えば岩波文庫の八杉訳については八杉自身が理解できていない部分は訳にも問題があることがわかったりもする)読書ノートとしては大変上質なものだと思われる.


私にとっては,本書は『種の起源』を再読するきっかけを与えてくれて大変ありがたかった.『種の起源』は書かれてある内容が深いので,こちらが進化生物学やダーウィンの時代背景の理解を進めて読むと,そのたびにダーウィンの思索の深みにまた少しふれることができる.そういう意味で何度読んでも新鮮さを感じられる本だ.本書のガイドで,何カ所かまた深く読むことができてそれだけでも私にとっては価値あるものであった.



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ダーウィンの Origin の訳書で入手しやすいのはこのあたりだろう.スタンダードなのは岩波文庫版.図説版は一部省略があるが,図版が豊富で最初に読むには取っつきやすい.この2つは原書の初版からの翻訳だが,槇書店のは最後の第6版が元になっている.