「Natural Security」 第14章 ネットワーク分析は部分と全体を結びつける

Natural Security: A Darwinian Approach to a Dangerous World

Natural Security: A Darwinian Approach to a Dangerous World


第14章はこれまでとはちょっと変わった章だ.ネットワーク分析の初歩が解説され,それのセキュリティの応用が若干ほのめかされている.著者はフェレンク・ジョーダン.ジョーダンはハンガリーの進化生態,生態モデルのリサーチャーのようで,現在はイタリアのトレント大学マイクロソフトリサーチにいるようだ.


コンピューター利用によるネットワーク分析は,部分とネットワークから全体を理解する手法として今やハードな科学になりつつあると冒頭で宣言している.


最初に挙げられているのは生態モデルだ.いくつかの種がどのような捕食関係になっているかによってその相互作用の結果が大きく異なってくることを,スペシャリスト捕食者は絶滅しやすい,ラッコの絶滅はウニの増殖を招き,ケルプが減少するなどの結論とともに説明している.
また多くのネットワークを分析すると,スケールフリーという特徴を持つものが多いが,食物連鎖と交通ネットワークは異なる性質を持つことなども紹介されている.


ここからネットワーク分析の初歩が解説されている.ノードとリンク,リンクの性質を与えると,ネットワーク全体のいくつかの性質値を定義・計算して分析できる.
このような性質のうち,リンク密度は生態学ではコネクタンスと呼ばれ,生態系の安定性との関連が議論される.また生態系では複雑性と安定性の関連もよく議論される.特にリンクに強度があるときに強いリンクのほか弱いリンクが重要な性質を与えるようなこともわかってきており大変興味深いと指摘している.


次はネットワークの変化の議論だ.ノード,リンクを変化させるときに何が生じるか,ネットワーク全体の安定性などが議論されている.リンクに向きがある場合のループ,スケールフリー型ネットワークはランダムエラーに強いが特定場所を狙われると弱いなどの分析結果が示されている.
捕食ネットワークの安定性の場合には餌を変更できるかどうかが重要になる.テロリスト組織はリンクが少ないのが特徴で,また攻撃計画に合わせて組織ネットワークを頻繁に変える.通常は平均距離の長いネットワーク構造を持ち,攻撃直前にショートカットを作るが全体のネットワーク特性値(冗長で中心なし)はあまり変わらないと議論している.対抗するにはネットワークの分断化が重要だと指摘している.


防衛側が侵入されやすいかどうかをネットワーク特性から議論すると,構造が壊れたときに侵入が容易になるので,安定したネットワークが重要だということになる.中央集権階層型ネットワークと,分権型民主的ネットワークを比較すると,後者の方が柔軟で早い変化に対応できる.生態系は局所的に適応が生じて階層が組み上がり,ポジティブフィードバックが生じるときに大きな変化になる.


次はネットワークに地形要素を組み入れた場合の議論だ.地形によりネットワークが制限されると分断型のネットワークになる.現実の世界ではこのような地形的障壁は減りつつある.テロリストのネットワークはそのような分断がなく,ある意味非常にグローバルな構造になっている.
生態系においては制限がニッチをうみ,利他的行動の進化にもかかわる.


キーノードの議論は生態系ではキーストーン種を題材に行われた.テロリストのターゲットはキーノードになることが予想されるのでこの分析は重要だ.社会構造から見ると,政治家,リーダーのところがキーノードとなる.防衛サイドから見るとテロリストリーダーがキーノードになる.


最後に結論がまとめられている.

セキュリティはネットワーク崩壊の問題だと考えるとネットワーク理論を応用できる.より強いシステムの設計の問題としては,フィードバック,冗長性,ヘテロ性,モジュラー性が重要なポイントになり,柔軟性と最適性,階層性と民主性のトレードオフを考えるべきことになる.
現代社会は大きな均質なグローバルネットワークへの方向に向かっており.これはテロリズムに有利になっている可能性があり,それへの対策は重要である.今後はネットワークの挙動説明の精密化,テロリストネットワークのさらなる分析が課題だろう.


あまり勉強していない分野なので,概説として大変興味深かった.いずれにせよ本格的な応用はまだまだこれからといったところのようだ.



関連書籍


ジョーダンには単著はないようだが,このシリーズにはたびたび寄稿しているようだ.この巻ではTopological key players in communities: the network perspectiveという記事を書いている.

Ecosystems And Sustainable Development (Advances in Ecological Sciences)

Ecosystems And Sustainable Development (Advances in Ecological Sciences)

  • 作者: Enzo Tiezzi,C. A. Brebbia,S. E. Jorgensen,D. Almorza Gomar
  • 出版社/メーカー: Wit Pr/Computational Mechanics
  • 発売日: 2005/05/30
  • メディア: ハードカバー
  • クリック: 5回
  • この商品を含むブログ (1件) を見る