アカメテリカッコウのヒナ擬態について

 
子育ての攻防に見る鳥たちの進化の道筋(日経サイエンス2010/02)
shorebird2010-01-17
年末にでた日経サイエンス2月号に上田恵介先生が登場.対談記事「子育ての攻防に見る鳥たちの進化の道筋」の中で,1昨年の生物地理学会(http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20080417参照)で紹介してくれたオーストラリアのアカメテリカッコウのリサーチの進展が紹介されている.後半ではオオヨシキリの巣を見張るカッコウのメスの話とか,佐渡のトキの放鳥とメスの習性などの話もあってなかなか面白い読み物になっていた.



ここでおさらいをしておこう.
1昨年の段階では,オーストラリアのアカメテリカッコウの托卵においては,ヨーロッパや日本で観察される通常のカッコウには見られないヒナ擬態が観察できること,これはデイビス本の議論とは異なっているので興味深いと思われることが指摘されていた.私がデイビス本を見てみると,まず通常のホスト種がヒナをイジェクトしない理由について様々な仮説が紹介されている.その一方でヒナ擬態が見られる場合もあることが書かれていて,それはホスト種がヒナを見分けて拒否するかどうかに依存しているのではないかという議論だった.(http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20080417#1208435269参照)*1


この時点で私はホスト種のハシブトセンニョムシクイがヒナイジェクトをすることが確認できるかもしれないこと,そしてそれが通常のカッコウのホスト種とどのような生態的な違い(例えば托卵頻度,托卵種のヒナによるホストヒナイジェクト頻度など)があってそうなっているのかが解明されることを期待していた.




アカメテリカッコウ(Little Bronze-Cuckoo: Chalcites minutillus



ハシブトセンニョムシクイ(Large-billed Gerygone: Gerygone magnirostris
いずれもWikipediaより


紹介されているリサーチの進展は私の期待に添った方向だが,さらにはるかに面白いことになっているようで興味深い.



まずホスト種のハシブトセンニョムシクイとアカメテリカッコウでは卵は全然似ておらず,ヒナは非常によく似ている.
ホスト種のハシブトセンニョムシクイは卵を3個生むのだが,最初は生みっぱなしで3個そろってから抱卵する.アカメテリカッコウはまだ3個そろわない時(つまり抱卵前)にやってきて卵を1個つまんでから自分の卵を托卵する.(これはハシブトセンニョムシクイが卵の数を見分けられることを示唆している)
そしてハシブトセンニョムシクイは,卵の時にはアカメテリカッコウの卵を見分けてイジェクトしようとせずヒナの時にのみイジェクトする.手がかりは鳴き声を使っているのではないかと思われる.またヒナの識別は完璧ではなく,誤イジェクトが実際に生じている.


ヒナの時のイジェクトは予想できたが,卵の時にイジェクトしないというのは面白い事実だ.


ここから先は推測だがと前置きして語る上田先生の仮説は以下の通り.


何故卵を見分けてイジェクトしようとしないのか
托卵率が非常に高い(40%)上に,アカメテリカッコウのメスになわばりがないので,多重托卵の可能性が高い.このためアカメテリカッコウの卵を残しておいた場合には,多重托卵されるときに運び出される卵が前のアカメテリカッコウのものになる可能性が高い(アカメテリカッコウ同士の競争からアカメテリカッコウは見分けて別のアカメテリカッコウの卵を運び出すように淘汰されているだろう).
しかしハシブトセンニョムシクイがアカメテリカッコウの卵を見分けて捨てて自分の卵を産み付けるということを行うと,多重托卵の際には何個も自分の卵が運び出されることになり,コストも高いし,抱卵がおくれてしまうリスクも高くなる.このため卵は放っておいてヒナになってから見分けてイジェクトとする方が効率的なのではないか.



この仮説は説得的だが,通常のカッコウホスト種との生態条件の違いが本当に多重托卵率だけだということで説明できるのかどうかはなお検証が必要だろう.
またヒナの誤イジェクト率が半分ぐらいではないかと推測されていたが,これはデイビス本の議論にあるように誤学習によって生じているのか,それともヒナ擬態がある場合には学習が困難で偶然によるのか,偶然レベルでもイジェクトした方がよいのは何故か,それはカッコウと同じようにアカメテリカッコウもホスト種のヒナをイジェクトしようとするためなのか,等々の疑問が浮かんでくる.いずれにしても興味深い.


さらに調べてみると,Biol. Lett. published online 23 September 2009(http://rsbl.royalsocietypublishing.org/content/early/2009/09/22/rsbl.2009.0540.full.pdf+html)においてSato, Tokue, Noske, Mikami, Uedaによる本件のヒナのイジェクト行動についての報告がなされている.


報告においては,以下が強調されている.

  • これまで巣の放棄,世話の拒否という形でのホスト種によるカッコウヒナへの対応による托卵への防衛は報告されていたが,ヒナを直接イジェクトするという報告ははじめてであること.
  • また既報告の防衛戦略は,卵の識別が不可能になったのでヒナの段階での世話の中止という形で生じているのではないかと議論されていているが,今回は卵は擬態がなく,ホスト種は卵イジェクトしようとしていないことから進化経路は異なるのではないかと考えられること,
  • 既報告の防衛行動の利益は将来の繁殖に向けられるべきリソースの節約だけだが,今回の行動は,防衛の結果イジェクトにより直接自分のヒナを育てることができること
  • (何故卵イジェクト戦略をとらないかの上記仮説は議論されていない)


この報告によるとアカメテリカッコウのヒナも通常のカッコウと同じように孵化するとすぐにホスト種の卵もヒナもイジェクトしてしまう習性を持つらしい.またイジェクトが確認された5つの巣についてのデータも付されていて,うち2つでは見事にアカメテリカッコウをイジェクトしてホスト種の巣立ちができたが,2つでは自分のヒナをイジェクト,残りの1つでは両方ともイジェクトという結果に終わっている.生データはやはり迫力があって面白い.
成功率40%でも,イジェクトしなければアカメテリカッコウヒナに自分のヒナがイジェクトされるということであれば,この1回についてはやらないよりははるかに良いということだろう.しかし長期的にも良いかどうかは別の話だ.デイビス本のロッテムの議論からいけば,このようなイジェクト習性により,托卵されていないときにも誤イジェクトが誘発されるか,そして長期的にはどちらが有利なのかというあたりが問題になるだろう.
卵イジェクト戦略の効率性とともになかなか興味深い問題だ.


今後のリサーチのますますの進展を期待したい.



関連書籍

Cuckoos, Cowbirds and other Cheats (T & AD Poyser)

Cuckoos, Cowbirds and other Cheats (T & AD Poyser)

  • 作者:Davies, N. B.
  • 発売日: 2000/05/03
  • メディア: ハードカバー

何度も紹介しているが,行動生態学の珠玉の本である.

*1:このときにはリジェクト(給餌の拒否)とイジェクト(巣からの放りだし)をきちんと区別して読んでいなかった.基本はどちらでもヒナ擬態が生じるだろう.後述のBiol. Lett.の報告ではこれまで世話の放棄は報告されていたが,巣からの放り出しの報告ははじめてであるということだ