「Spent」第3章 なぜマーケティングは文化の中心なのか その2

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

マーケティングが世界の資源配分にかかる主権を消費者の欲望に与え,世界を変えているのだと説明した後,ミラーはここでマーケティングミームの関係について整理している.

ミラーはミームについての討論会での経験を語っている.そこではスーザン・ブラックモアが,ヒトの文化はミーム淘汰でよく説明できると論陣を張っていて,ミラーはむしろミームマーケティングによりトップダウンで流行っているのではないかと思ったそうだ.


ミラーによると通常のミームの多くは6つのグローバルメディアコングロマリットによってその成功と失敗が決まるということになる.ミラーの挙げる6つはタイムワーナー(AOL,CNN,Time,Life),ディズニー(ABC),ニュースコープ(FOX,Sky),ヴィヴェンディ(ユニバーサル,ポリグラム),バーテルスマン(UFARCA),ヴァイアコムパラマウントCBS)というところだ.

これらは最近ではテレビや本や映画を相互プロモートしている.ワーナーが「ダークナイト」を売り出すときにはタイムやピープルで取り上げられ,CNNで好意的に紹介され,AOLでも宣伝される.ビジネスとしては当然だ.さらに4つの広告宣伝会社がある.(Omnicon, WPP, Interpublic, Pubicis)あまりアカデミーの人には知られていないが,これらは文化エンジニアリングの心臓だ.彼等はミームを創造し,放送時間を買い,ばらまき,その成功度合いを計測する.ミームを広めるために年間4000億ドルが使われている.


日本で言うと民放と大手出版社と大手広告代理店というところになるだろうか.アメリカほどは資本による系列化は進んでいないが,似たようなものかもしれない.


ミラーは具体例として食品の嗜好を取り上げている.

  • 進化心理学の教科書には私達の脂肪と糖分への好みはそれが希少な栄養素であったから進化し,ファーストフードへの嗜好につながっていると書かれている.これらはヒトのユニバーサルな嗜好を説明する.
  • ミーム理論は別の可能性を示唆する.私達はほかの人がステーキやドーナツを食べるのを見ているから自分たちもそうするのかもしれない.これらは文化による差を説明できる.


グローバル企業のマーケティングからは何か言えるだろうか.

  • 肉の消費,塩の消費,糖分の消費に関して多くの業界団体や企業が多くの金を使っている.確かに彼等はヒトの栄養的な選好を作り出すことはできない.しかしそれを前提とした上で多くのマーケティングができる.


要するにミラーは,ミームが広がっていくことを説明するためには,単に真似をしていると言うだけでは不十分でマーケティングを知らなければならないと主張しているのだ.確かにミーム伝達過程には何百万人もがマーケターや広告や小売としてかかわっているということになるだろう.


ミラーはさらに市場原理主義にも1つだけ正しい主張があると言っている.それは市場には中心はなく,統一された陰謀はないということだ.マーケターは単に自分たちのシェアや利益を上げようとしているだけだ.彼等は邪悪な人たちではない.


しかしこれまでマーケティングを理解するための学術的なフレームはなかったのだ.ヒトの選好理論やミーム理論はマーケティングを完全に無視している.社会科学の陰謀理論は市場の仕組みを理解していない.多くの行動科学はマーケティングを重要視していない.
そこに提示されるのがミラーの進化消費者心理学ということになる.