「Spent」第4章 これがお金についてのあなたの脳なのだ その1

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


消費者心理を理解するにはどうしたらいいのだろうか.
ミラーは一旦そこから距離をとって,それがいかに馬鹿げたことをよく見た方が良いといっている.ミラーによるとそれは一種の病気なのだ.そして何がそれに最もよく似ているかについて「ナルシシズム」だと指摘している.


ナルシシズムフロイトが1914年に導入した概念だということだ.「自分の外観を愛し,それが人に愛されると思い,他人をバカにする.」この概念に最も近い消費者中心主義的なものとしてミラーが挙げているのはパリス・ヒルトンの自己ブランド香水「ジャスト・ミー」だ.ちょっと検索してみると,ピンク色の香水で,パッケージデザインはパリス・ヒルトンその人の写真になっている.


<DSMMの定義>

  • 利己的
  • 傲慢
  • 外観主義
  • 権利があると思う
  • ほめられることを求める
  • ファンタジーに浸る
  • 自己肥大的
  • 被害者意識
  • 楽しめない
  • 情緒不安定


<ミラーの説明>

  • 自分がスターだと思い込む.
  • 自分のことばかりしゃべりたがる.
  • 感覚は鈍くなり,より強い刺激を求める.
  • フラストレーションに弱く,薬物やギャンブルなどにおぼれやすい.
  • 自分の実像とのギャップについていけず,不安定になる.
  • 同僚との交流ではなく,1人での耽溺に楽しみを見いだし,自己顕示的になる.
  • テクノロジーに詳しいとエゴサーフ(自分のことの検索しまくる)やブログストリーキング(ブログに自分のことを書きまくる)をしやすい.


この本は昨年の出版だが,最後の項目は今ならツイッターでつぶやきまくるということになるのかもしれない.


ミラーはさらに「あなたが大人なら,これらはすべての若者に当てはまると思うだろう.あなたが外国人ならこれらはアメリカ人の特徴だ.女性なら男についての記述だと思うだろう.」といっている.要するに誰にでもこのような傾向はあるということだ.実際にナルシシストとして診断されるのは人口の1%程度だそうだ.


ナルシシストは自分がおかしいとは思っていないので自分から治療には行かない.周りの人に手配されて診断を受けても改善しない.ミラーはこれも消費者心理と同じだと指摘している.消費者は自分がおかしいと思っていないのだ.


ナルシシストは通常,地位追求と快楽追求のあいだを行ったり来たりするそうだ.これは動物において自分の適応指標をディスプレーしたり,適応キューを追い求めるのに相当するとミラーは説明している.前者は自分が優れていると同種個体に誇示していることにあたり,後者は(本来適応的な刺激は心地よく感じるように進化適応しているはずなので)快楽を追求するということだろう.
そしてさらに,これが消費者中心主義の二つの面でもあると主張している.この説明はわかりにくい.というわけでミラーはすぐ後でiPodを例に引いて説明している.

すべての広告は,地位追求か快楽追求をアピールしている.2007年の第6世代iPodをみてみよう.
iPodは典型的なヴェブレン的誇示的消費ではないが,その広告にはこの2つの面が良く出ている.
まず,iPodはそのデザイン,ブランド,相対的な高価格から,クールさ,地位,富をディスプレーしている.さらに周辺機器,関連グッズで飾り立てることもできる.
それと同時にiPodナルシシズムの自己刺激的側面を持つ.それは自分だけに音楽やビデオという快楽を運んでくれる.自分だけの世界を作ることができるのだ.


ミラーは本書ではこの地位追求型,適応指標誇示型の消費者中心主義を主に取り上げるといっている.(なおGad Saadの「The Evolutionary Bases of Consumption」は主に快楽追求の側面を扱っているそうだ)
それは実際に多くの商品が適応指標誇示型に向けてマーケティングされているからであり,アダム・スミス,ウェブレン,ロバート・フランク達によって先駆的な理解がなされているものでもある.


ここでミラーは,ここまで読んでも自覚のない読者のためにちくっと皮肉を書いていて面白い.

私達は,ボトックスやハマーなどの新富裕層向けの誇示的なブランドを軽蔑していて,自分たちの消費はナチュラルで啓蒙的な自己実現であり,そのような消費とは無縁だと考えたがるのだ.しかしハンプシャーカレッジに行き,自分のことを劇作家だと称し,自分がモンサントの法律家よりモラル的に優れていると考えているなら,それは十分偽善的で見せびらかしなのだ.そしてそれは私達が皆偽善的だということだ.

ボトックスとはボツリヌス菌の毒を使ったしわ取り治療のことでアメリカではメジャーらしい.(日本でもそうなのかどうかについては私はよく知らない)モンサントラウンドアップという除草剤と,それに耐性を持つ遺伝子組み換え作物で有名なアメリカの企業だ.モンサントの企業イメージがちょっとわかってそこも興味深い.


関連書籍


快楽ベースについて書かれているという進化消費心理学の草分け

The Evolutionary Bases of Consumption (Marketing and Consumer Psychology Series)

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