Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior
- 作者: Geoffrey Miller
- 出版社/メーカー: Viking Adult
- 発売日: 2009/05/14
- メディア: ハードカバー
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消費者中心主義の消費者心理の基本はナルシシズムと同じだと指摘した後は,ナルシシズム的な商品とそうでないコモディティは何が違うのかという話に進む.
ミラーは様々な商品を単位重量あたりの価格で並べてみるとそれがよくわかると言っている.それではいくらでも例外がありそうに思うが,ミラーの挙げるリストを見ると結構説得力があってなかなか面白い.ちなみにそのリストはこうなっている.
- 空気
- 水
- コメ
- 砂糖
- ガソリン
- リンゴ
- 家
- テレビ
- 車(カムリ)
- ワイン
- 犬
- コーヒー豆
- 本
- 自転車
- 贅沢な車(レクサス)
- 血液
- 腕時計(タイメックス)
- ノートコンピュータ
- 銀
- 望遠鏡
- ブラジャー(ヴィクトリアシークレット)
- ハンドガン
- プライベートジェット
- CD
- 香水
- iPod
- コロンビア大学のニセ証書
- 携帯
- DVD
- 豊胸手術
- マリファナ
- 紙幣
- 贅沢な時計(ロレックス)
- ジルコン(偽ダイヤ)
- 金
- 腎臓
- コカイン
- バイアグラ
- プロザック
- ヘロイン
- ボトックス(ボツリヌス菌の毒を使ったしわ取り治療)
- コロンビア大学卒業証書
- ダイヤモンド
- ゴッホの絵
- LSD
- ヒトの卵子
家は全部合わせるとそれほど高価ではなかったりするが,日本ではもっと上位に来るだろう.同じく日本では犬がもう少し上位に来そうな気がする(コーヒー豆よりは地位の見せびらかしに使われているのではないだろうか)CDとDVDの価格はほぼ同じだろうなどという細かい突っ込みはある*1が,全体として眺めるとなかなか面白い.所々にフェイクのシグナルの価格が出てくるのも小粋だ.
ミラーは,卵子が高いのは需給のためだが,まさに適応度の高い遺伝子を含んでいれば非常に魅力的になり得るだろうとコメントしている.全体の傾向としては魅力ある女性と結婚するためのアイテムは高く,生活必需品は驚くほど安い.ミラーは重量あたり価格が銀を越えるとナルシシズムの世界に入り,金を越えると純粋のナルシシズムになると指摘している.
またミラーは本当に価値があるもの(真実の愛,尊敬を受ける,充実,賢い両親,成功した兄弟,可愛い子供,目,脳)はプライスレスなのだとも指摘している.それを忘れさせるのが消費者中心主義つまりマーケティングにとって重要になるのだ.つまり消費者中心主義が与えてくれる付加価値は本当にわずかなものだということになる.
ミラーは本章の最後で,「シムズ2」が間違っているところはどこかという指摘をしている.
このゲームは巨大な商業的成功を収めているが,ここで前提とされているヒトの本性は間違っているし,それが子供たちに与える影響を考えると憂慮すべきものだというのがミラーの意見だ.
シムズでは8つの基本的なニーズが設定されている.飢え,栄養,排泄,衛生,社会的コンタクトという5つはよい.後の3つはあいまいだ.慰め(リラックスしたり寝たりすることで満たされる)楽しみ(遊ぶことで満たされる)環境(家を贅沢品で飾ることにより満たされる).これらを効率的に満たしていくことがゲームの目標になる.そこでは贅沢品はより効率的に各パラメーターを上昇させることができるようになっている.
奇妙なことにシムズでは社会的地位とか,威信とか,性的魅力というパラメーターはない.贅沢品を買ったからといって友達や異性により好かれるということはないのだ.贅沢品の社会的なディスプレーとしての意味はまったく入れ込まれていない.一方自己快楽追求の要素は,金を稼いで贅沢品を買うことによりニーズを満たせ,それは生存に必要なニーズと同じだとして盛り込まれている.
つまりキャリアを追求し金を稼ぐことと,贅沢品は人生を豊かにする基本要素だと規定されているのだ.シムズは学習し,働き,買う.しかし投票したり主張したりユニオンを作ったりボランティアをしたりはしないのだ
ミラーはリアルなシムズを作るならもっと社会的地位などの要素を入れ込み,金で買えない幸せを追求するようなオプションを入れるべきだと指摘している.そしてこのゲームデザイナーはカリフォルニアに住む中流以上の白人男性であり,あまりに消費者中心主義に浸ってしまっているのだろうと皮肉っている.
- 出版社/メーカー: エレクトロニック・アーツ
- 発売日: 2008/05/22
- メディア: DVD
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*1:なお情報の価格はこの基準ではうまく捉えきれないと注意書きがある